残酷な嘘
静謐
「魅羅」第一篇
春を迎えました。あれから三年が経ち、私も友人らもそれぞれの道へと
進んでいきました。就職、進学、専門学校へ・・・進む人、
いろいろな人が私の前を通って別々の道へと進んでいきます。
私はときめき高校の古木を時々見に行きます。
今年も古木の下でお互いの気持ちを伝えている
学生さんを大勢見かけました。
咲き誇る桜が散り、また咲く・・・・・・どこかで
矛盾しているのかもしれませんがそれでも
私には桜の散り音は心の様相を洗い流してくれるようで
何ともいえない感覚になります。
サラサラ・・・・・・・・サラサラ・・・・・・風に舞う桜は
何と寂しげで嫌なものなのでしょう。
確か平安時代の歌人が花が舞うのは
嫌なものだと言った人がいましたがその通りだと思います。
あの時私は泣いて蹲るしかありませんでした。それしか
自分を守る方法が無く、こうして見るとあの人がいたから
私は自分が自分でいられたんだと思っています。
また私は透さんのご両親にご挨拶に伺いました。
ご両親は藤崎さんから大体の事を聞いていたらしく
私のことを喜んで歓迎してくれました。
その幾ばくかの心温かいもてなしに感謝して私は透さんの
バイクを譲り受ける事にしました。
すぐに私はバイクの免許をとりました。
時々透さんのバイクを乗っています。
だからでしょうか、時々透さんの声が聞こえるような気がします。
風と一緒になっていると何か隣で運転しているような気がして
ふと隣を見ます。そこは流れる風景があるだけで
何もありません。
それでも時々聞こえます。風のようでいてそれでいて
はっきりとした声を。私の心の中に響いてきます。
「笑って見送ってくれ。お前に泣き顔は似合わない」
卒業式を迎えて私は定職につきました。私、鏡魅羅もモデルとして
色々仕事に就くようになりました。透さんの事を聞こうとして
手紙を送ろうとしましたが病院の名前が分からず、
私は高校二年の思い出を封印しようとしました。
でも結局忘れる事が出来ませんでした。
私にとってそれだけあの思い出は大切な物だったからです。
今でも心が痛みます。時々詩織さん、いえ藤崎さんが私の家に
やって来て弟や妹達の世話をしてくれます。
透さん、知っていましたか?
あの時校庭に貴方の応援をしてくれた人たちが
時々私の家に遊びに来てくれている事を。
私を慰めようとしている事ぐらい分かります。
だからそれを思うと私は悲しいのと嬉しいのが一緒に
なり思わず泣いてしまいます。
そうそう、この間朝日奈さんが家にやって来て
楽しい話をして帰っていきました。私は家事に追われ
ほとんど弟たちの相手をしていませんでしたが
夕子さんが相手をしてくれたそうです。
時々夕子さんが私をからかいます。魅羅って可愛い笑顔するんだね、と
言って私をからかいます。それが嬉しくてつい泣きたくなります。
藤崎さんや朝比奈さんはそんな私を見てこう言います。
「透も幸せね。こんなに女の子に慕われているなんて」
「でも魅羅っていつからこんなに泣き虫になったのかな」
私はそれを聞いてハンカチに顔を伏せてしまいます。
詩織さんや夕子さんからもう良いじゃないか?という話を聞きます。
でもそれだけは出来ません。だってもし私まで別の幸せを求めたら
誰が透さんを出迎えるのですか?そんな事出来ないじゃありませんか。
笑って出迎えなければ・・・・透さんが可哀想です。
そんな事を夕子さんや愛さん、詩織さんに言うと良いなあって
皆さん言います。
おかしいですか、こんな私って。
そして透さんの親友早乙女さんとその妹さんが私の家に来ては
専門学校や妹さんの受験など起きた出来事を話してくれます。
大学へ行った透さんの友人もよく来ては色々と話してくれます。
車の免許を取った、獣医さんになった、就職が決まったとか・・・・
色々です。
私は知りませんでした。こんなにも人の温かみが良い物なんて。
モデルの仕事も順調です。
でも私は心の底から笑う事が出来なくなりました。
だって・・・・・貴方がいない。どこにも・・・
日本のどこにもいない。
アメリカに渡っても私は怖くて貴方に会う事が出来ない。
また裏切られるんじゃないかと思ってしまって・・・
それが怖くて・・・・
認めたくないから・・・・。だから・・・・・・・・
会いに行くのが怖い。
今日も貴方を想ってこうして日記をノートでつけています。
悲しい?
いいえ、私は貴方の言葉どおり笑います。笑って見送ります。
笑って仕事頑張ります。笑って一日を大切に過ごします。
でも笑えません。
だって・・・・・・・・・・貴方と共に私の笑みは
アメリカに行ってしまったから。
だから笑いません。笑うと辛いんです。貴方の温かみが
欲しい・・・・・でないと私が土くれになってしまいます。
あっ、もうお仕事の時間です。
透さん・・・・・・・・・・・
泣いても良いですか?貴方の事を想って泣いても良いですか?
「写真」
魅羅は打っていた文章をフロッピーディスクに記録するとノートの電源
を落とした。
愛用しているデルのノートパソコンはカチッカチッと微かな音を立てて
静かになった。
彼女の周りはガヤガヤとスタッフ達が次の撮影準備に入っているのか
落ち着きが無く走り回っている。そのうちアシスタントらしき男性と
プロのカメラマンだろうか、二人の男性が色々と話し始めていた。
そして相談が一段落したのだろう、カメラマンのアシスタントらしき男
性が魅羅の所まで走ってくる。
「魅羅さ〜〜〜〜〜んん、写真の続きを撮りますよ〜〜〜〜〜」
「あっ、は、はい。今行きます」魅羅は静かにそう言って
コートを脱ぎ、今まで座っていた椅子にかける。
「では魅羅さん、とりあえずですね、今回の撮影は週刊誌の
グラビアという事でお願いします」アシスタントが簡単に説明する。
「分かりました・・・・・・・・・」
「それから魅羅さん、笑って下さいね。先生はどうして魅羅さんが
笑おうとしないのか首を傾げていますから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それからその無言も止めて下さいね。怖いですから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私は怖くありませんわ」
「でも今をときめくモデルの魅羅さんがあまり笑わない人で
無口だったなんて事実を知ったらゴシップ誌の
いいネタですよ。気をつけてくださいね」アシスタントが魅羅に簡単な
化粧を施す。
「でも魅羅さんの水着も良いですね。誰が選んだんですか?」
魅羅の水着は純白の水着で小さな白百合が刺繍されてあった。
それだけでも魅羅の華麗さが分かるというものである。
そして紫の髪はまるで舞い落ちる花弁のようにキラキラと輝いている。
「でも昔の魅羅さんは紫とか赤い色とかの水着を好んだと聞いた事が
ありますが・・・・どうしていきなり白なんです?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・貴方は白はお嫌い?」
「い、いえ、そんな事ありませんよ。
ほら、口紅をちょっと塗りますから静かにして下さいね」アシスタントは魅羅を近くの椅子に座らせると
メイクボックスからナチュラルカラーの口紅を取り出して
微かな色になるように優しくそっと塗っていく。
「ええ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」それでも魅羅は笑わない。
むしろ無表情で黙って頷くとアシスタントは呆れたような表情で
メイクを施していく。
「私が白を好きなのは・・・・・・・・・・・・忘れたくないから。
昔これを好きだと言ってくれた人がいて・・・・・・・・その人が
戻ってきたら私は・・・・・・・初めて笑う事が出来るような気がするから」
「えっ・・・・・・何ですか?」どうやらアシスタントの男性は聞いて
いなかったようで魅羅に何度も聞こうとする。
だが魅羅は言わなかった。
鏡魅羅は卒業と同時にモデルとしてデビューする事になった。
だが、彼女自身卒業と同時にあれだけ紫や赤を好んで着ていた
服をスパッと諦めて白を基調とした服を好んで着るようになっていた。
最初は所属する事になった芸能プロダクションも動揺していたが不思議
な事に白の水着を着た魅羅は輝いて見え、それが魅羅の魅力を
引き出す事になった。
プロダクションがもう一つ気に入ったのはその魅羅が放つようになった
憂いのある表情だった。昔魅羅を見た事がある人は今の魅羅を見て
こうまで変わる物かとかえって心配したが
魅羅自身の心を表しているかのような憂いや影のあるような
落ち着き払った笑みは写真やグラビアを飾るとそれだけでも
売上が増えたのである。そして写真集の発売には
有名タレントのヘアヌード集を抑えて売上トップに踊り出たのである。
また化粧品のグラビアやCMでも魅羅は登場し、一躍有名になったのは
言うまでも無い。
そしてあるコーヒーのCMデビューの際には渋谷や新宿のビル一面に
彼女の写真が飾られたのである。
極めつけは渋谷のQ−FRONTや109、新宿のアルタと言った
場所の窓一面に飾られた魅羅の
口紅のCMである。それはまさにほんの一瞬の事とはいえ
彼女の魅力を引き出すには十分であった。
「はい、もう一枚。ほら、魅羅ちゃん、可愛いねえ、そこで笑って。
そ、そうそう・・・良いねえ。可愛いねえ」カシャカシャ、と
音を立ててカメラのフラッシュが焚かれアシスタントがフイルムを交換していく。
「ようし、ライトを上のほうにして・・・そ、そう魅羅ちゃんちょっと
小悪魔になってみようか。そ、そう男を誘惑するみたいに。でも彼氏が
いるから駄目って顔で」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こうですか・・・・・・・」魅羅は微かに
笑みを浮かべつつもその瞳はじっとカメラを見つめ悩ましげな
ポーズをとる。その瞳はまるで猫のようで
近寄ると爪で引っ掻きますよと言っているよう。
悩ましげなポーズをとる子猫はまさに
じゃれ付くご主人様にからかう意味で爪を立てる。
それは悪戯の為。自分の要求を満足させる為のもの。
「この子は凄いよ。天性の感というのがある。あっという間に
こっちの考えを読んでポーズをとってしまう」
カメラマンがフイルムを充填したカメラを受け取りフラッシュを焚く。
「でも・・・・・・・・・彼女彼氏を作ろうとしないんですよ。
あれだけのことが出来るのに・・・普通あんな表情したら
誰かいそうなものなのに・・・・彼女だけ誰もいないんです」
「そうなのか」カメラマンが思わずシャッターを切り忘れる。
「それにさっきパソコン打っていましたけどその時の彼女の表情
は・・・・辛く泣きそうな顔をしていました。まあそれが彼女の神秘性を
増加させているんでしょうけど」
「あの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・次は・・・・・・・どうしたら良いでしょうか?」
魅羅の声にカメラマンとアシスタントは間の抜けた表情をしている。
魅羅はすでにポーズをとり終えてポツンと立っている。
「あっ・・・・・えっとそうだね・・・・・・それじゃあ今度は胸元を
見せるようで見せない、そんな切ない表情をしてくれるかな?そう、彼氏が遠くに
行ってしまってその想いが届きますように、ってな具合に。
お願いできるかな?」カメラマンがアシスタントに
少しライトの光源を落すようにに命令を下す。
だが魅羅はそのシチュエーションに過敏に反応した。
カメラマンの背後に控えていた魅羅のマネージャーが
慌てて止めようとする。彼はこれから魅羅に起きる事が
分かっていた。
「ひっ・・・・・・・・・」
魅羅の微かな悲鳴はスタッフには聞こえなかったが
それでも魅羅に動揺を与えるには十分であった。
私はどのようなポーズをとれば良いのか分かりません。
助けて・・・・・・・・・・・透さん。
どうすれば良いの?
また泣きたくありません。
怖くて体が動かない・・・・・裏切らないで・・・・
どこかに行かないで・・・・・・助けて・・・・
助けて・・・・・・・・・・・・・・・・・下さい・・・・・透さん・・・・・。
「どうしたの、魅羅ちゃん?早く支度してくれるかな?」
カメラマンがそう言って急かすが魅羅の動きが悪い。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・えっと・・・・・・・その・・・・・・・
私・・・・・・どうポーズをとればいいのか・・・・・分からなくて・・・・」
「えっ・・・・・・・・だって君さっきまで完璧だったじゃないか?」
カメラマンがカメラを覗き込む。だがそこに写っている被写体の
魅羅は何かに震えあちこちに控えているアシスタントの目を見ては
戸惑い、ライトの光を見てはその眩しさに手を翳し、ポーズも出来ないようで
目には涙が浮かんで何も言えなくなってしまった。
そして怖がっているような仕草を見せては右往左往し、
ついには蹲ってしまった。
「いやああああああああああああああああああ・・・・・・・・・・・・・
何もできないいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
そして・・・・・・・・・・・・・カメラマンにもアシスタントにも
そこにいたマネージャーにも彼女の悲鳴が聞こえた。
それは絶叫に近いものだった。蹲る魅羅からは幾重にも
涙の後が滴り落ちていく。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめんなさい・・・・それだけは
出来ない・・・・・・・・・」
そこにいたスタッフは信じられない表情をしていた。今まで魅惑ある
猫を演じていたのにここにいるのは何かに怯える子猫だった。
魅羅という子猫はまるでスタッフの目を恐怖と畏怖の象徴としか見ておらず
ただ怯えているだけだった。そこら辺にあったバスタオルで身を隠し
ガタガタ震えている。
そこにいたカメラマンがカメラを下げる。
「う〜ん・・・・・・どうも疲れているみたいだね、魅羅ちゃんは。
今日の撮影はココまでにしておこう。明後日同じ時間で
撮影するから魅羅ちゃんは事務所のマネージャーから
予定を聞いておいて。じゃあ今日はココまで。お疲れ様」
カメラマンがスタッフに命令を下していく。
その声に反応するかのように
スタッフが片付けを始め、魅羅にもコートがかけられる。
「・・・・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・マネージャーさん・・・・・・・・」
魅羅は近くにいたマネージャーに謝った。
マネージャーは缶コーヒーを差し出すと魅羅はゆっくりと口に含む。
「しょうがないよ、魅羅だって出来ない事があるんだ。それに
少し疲れているんだよ、事務所に連絡しておくから
明後日にでも撮影を始めるとしよう。それでいいね、魅羅?」
男性のマネージャーは優しくメモ帳に色々と書き込みながら
魅羅を安心させようと話し掛けている。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・」
「でも君にも出来ない事があるんだって思うと少し安心したよ。
完璧だったら大変だもの。私は君を高校生の時から追いかけていたから
こんなにも変わるとは思わなかったよ。ココにいる人は大丈夫。
皆君の事悪く思っていないよ。
だって、今の君はとても優しい目をしている。誰かの為に頑張ろうって
顔しているから君に任せられるんだよ。さっ、君の家まで
送っていこう。今日は事務所に寄らなくて良いから。
早く着替えておいで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・」魅羅はデルのノートパソコンを抱えると
そのまま控え室のほうへと歩いていった。
「トラウマ・・・・・・・・・・か。どうしてあんなに自分を苦しめようとするのか僕には分からないよ。
それに・・・・・君の心に僕が入る事が出来ないなんて・・・・ね」
一人残されたマネージャーは首を傾げるだけで何も出来なかった。
魅羅はマネージャーの車で自宅まで帰ってきた。
プロダクションの人間はこの魅羅のトラウマとも言うべき原因を何とか解決しようとしてきたが
魅羅がどこに原因があるのか話そうとしない為どうする事も
できないでいた。
芸能界は色々と変わる世界でもある。足を引っ張ろうとする他の
芸能プロダクションもある為こうした原因は早いうちに取り除こうと考えていた。
中には他の人気アイドルとの浮名や交際を他の芸能記者にリークさせたりもしたが
その情報も自然消滅してしまう。それは魅羅の性格にもあった。
無言であまり感情を出さない彼女を人気アイドルやタレントに差し出し
ても全く言って良いほどつまらない。すぐに帰ってきて事務所にいる。
そう事務所の人達が戻ってくる前にすでに彼女がいて
寂しそうな笑顔でお帰りなさいと言うのである。
しかもお茶も出してある。これでは打つ手がない。
人気を高めようとして色々とリークや情報をわざと
流していると言うのに本人が滅茶苦茶に壊してくる。
それで問い詰めるとすぐに会話が途切れて相手もどこかに
行ってしまい私一人ではどうする事も出来ないので
そのままお辞儀をして帰ってくると言う。
結局魅羅をプロダクションはどうする事も出来なかった。芸能界では
魅羅はガードが固い女性だと言う噂が広まっていた。
「魅羅」第二編
次の日・・・・・・・・・お休みの日。
今日はお休みを貰いました。私もとても疲れていましたので
今日ぐらいは部屋の掃除をしてきちんとしたいと思いました。
そう言えば昨日会ったあのタレントはどこに行ってしまったのでしょう。
他の女性の所だったと思いましたけどあの女性は確かどこかで
見た事があると思いました。でも私には関係ありません。
弟や妹の世話をして学校へと送りだした後、私は掃除機を納戸から
取り出して掃除をしました。
そうしている内に美樹原さんと友人が来て色々とお話をしました。
私は初めて心が落ち着きます。
こうしていると学生時代に戻ったような気がして嬉しくなります。
でも一番忘れたいと思っている人まで思い出してしまうので
なるべく私の口から言わないようにしていました。
愛さんも気を使って彼の事を言いません。
そうしてくれる方が嬉しいです。
そして・・・・・・・・・・私は一息つくとお買い物に出かけます。
今日の夜ご飯は何にしようか悩みましたが
たまには弟たちの好きなハンバーグが良いじゃないかと
思い挽肉を買いに行きました。
何故か今日だけは日記をつける気になっていました。
何か良い事がありそうな・・・・・そんな気がして
私はノートの電源を入れていました。
いつもならすぐ2〜3行で終わるのに今日は色々と書きました。
珍しいこともあるものです。今日は雪でも降るんでしょうか。
あら、昔そんな事誰かに言いましたね。
透さん・・・・・・・・・・・・・
「桜」
魅羅はノートの電源を落すとそのまま自室の電気を消した。
そして部屋を出るとそのままときめき公園の高台まで
足を伸ばして見る事にした。
「う、う〜ん・・・・・・・良い気持ち」魅羅はゆっくりと伸びをする。
桜は咲き誇り、ハラハラと花弁を散らし、桜色のじゅうたんを
作り上げる。
魅羅はその中をゆっくりと歩く。サクサクと歩くサンダルから
心地よい感触が伝わってくる。
「今までこうしてゆっくりと良い気持ちになったのは久しぶり。
明日は良い事がありそうです。たまには詩織さんや好雄さんをお誘いして
どこかに行きましょうか・・・・・・・・・」
魅羅がそう言うか言わないうちに高台の桜が激しい風に煽られ
花弁を散らす。
「あっ・・・・・・・・・・・・・・・・・」
魅羅の手のひらにも桜が舞い落ちる。微かに風を受けて
桜の花弁は震えている。
「早くしないと枯れてしまいます・・・・・・・・・・」
「魅羅」第三篇
私はじっと桜の花弁を見つめます。散り行く桜は空を
桜色に染め上げ、まるで桜風が何ともいえない芳香を
運んできます。
私はそっとそれを抱きしめる。こうしていると昔の
事を思い出します。でもそれは嫌な思い出だったけど
それでも私には自分が自分でいられたという
思い出でもありました。
私はただ公園の高台から望む風景に魅入っていました。
だから後ろに誰がいるのか分かりませんでした。
ポンポンと誰かが私の肩を叩きます。そして私は思わず振り返り・・・・
そして・・・・・・・・・・・そこにいたのは・・・・・・・・・あの人でした。
そうあの人が帰っていたのです・・・・・私を驚かす為に。
「舞い散る桜のように」
「よっ」青年となった少年は少女に軽い挨拶を交わした。
それはまるで2〜3日旅行に行っていてついさっき戻ってきたかの
ような気軽な挨拶だった。
少女は驚いていたが次第に目から涙が溢れ出す。
そしてその声は嗚咽へと変わっていく。
「いつからそんなにしおらしくなったんだ、魅羅?」
「・・・・・・・・・・・・うっ、うっ・・・・貴方のせいですよ・・・・・」
少女は少年の胸に飛び込み肩を震わせて泣いた。
「透さん・・・・・・・・・透さん・・・・・・・・」
「魅羅・・・・・・・・・すまなかった・・・・・・」透と呼ばれた少年は
少女をギュッと強く抱きしめる。
少女はそっと少年の左手を頬に添える。
「暖かいです・・・・・・」閉じた目からあふれ出る涙はそっと魅羅の頬を伝う。
「魅羅・・・・・・・・・・・」
「あの時はとても冷たかった・・・・・・・でも今は暖かい・・・・・」
「そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
少年と少女はしばらく見詰め合う。
「透さん・・・・・・・・・・・私言いたかった事があります・・・・・」
「うん?」
舞い落ちる桜色の風の中少女は頬を赤らめて少年に身体を預ける。
「貴方の事が好きです。私とお付き合いして頂けますか?」
「喜んで」
(終わり)
(あとがき)
遅れました・・・すみません。これで何とかなると思います。
申し訳ないです。ようやく完成です。
遅れて申し訳ありません。
おんしー
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