残酷は優しさの中に -蒼き満月の中で-
「いつからだろう・・・・・。」
僕は吹き抜けになっている部屋の空を見上げていた。
天井にはガラスが張ってあるため、空が見えるという宿屋のサービス
なのだろうが、僕には傷心を思い出させる物に過ぎなかった。
夢を良く見る。少年時代によく見た母が出てくる暖かい夢ではない。
それは・・・・「悪夢」という物だった。
ヘンリーやマリアには迷惑をかけたと思っている。いつも僕は反抗奴隷だった。
その為、僕は容赦なく殴られた・・・・。鞭も振るわれた。
そのうち涙も出なくなっていた。どこかで心が渇いていた。それがわかっていても
僕は本心を見せる事は無かった。いや、もう止めたんだ。幼馴染のビアンカにも、
見せるのは・・・止めたんだ、本心を。お互い辛い思いをするなら最初から
見せないほうがいいんだ。その方が幸せなんだ。
だから・・・・・君にだけは見られたくなかった。まさか・・・僕の心を見ぬく者が
いたとは思わなかった。サラボナで君と会った時、感じた。いや分かってしまった。
似たもの同士・・・・・・。そうか・・・・・そういう事だったのか・・・・・。
君が言っていた「不思議な運命」という事がどういう物か・・・・一歩間違えば
狂ってしまう僕を、いや、お互いを繋ぎとめる鎖だったんだ・・・。
だから僕は夢を見る。夢ではない夢を・・・・。
夢ですむと言うのならむしろ幸せかもしれない。
だから僕は夢を見る。それが必要不可欠な物だから、そう
悪夢という夢を・・・・。
僕は・・・・・何も無い荒野に立っている。ただ荒ぶる風が吹くだけ。僕は
亡父の剣を構える。片手には血を出して生気のない君を抱いている。
君から出ている血は多く、出血が酷い。僕も立つ事は出来ない。
長い沈黙の時・・・・そして・・・・狂気なる風が僕たちを岩壁に叩きつける。
嫌な音がした。どうやら僕の身体の骨が折れたようだ。
激痛と熱い空気が肺を満たす。それでも前を見据えなければならない。
でも僕は血を吐く。そして君を抱き抱えたまま岩壁から血の線を引いて落ちて行く。
もう僕には戦える力は残っていない。そして背後で控えていた
邪悪なる魔物たちは笑みを浮かべ僕達を容赦なく傷めつける。
腕の中の君はすでに力無く折られた手足の激痛に苦しんでいる。
そして頭からは出血し、僕の服を紅く染める。
僕も同じ。声も出ない。でも二人から出ている大量の血は
より魔物を喜ばせる。でも気を失う事は許されない。
死ぬ事も許されない。ただお互いを抱き寄せている。
そして・・・・・抱き合っている二つの右肩をボロボロになった
魔物の槍が貫く。ボキボキと肩の、僕とフローラの肩の骨が
砕け、肉がイヤ音を立てて貫いていく。そして槍ごと岩壁に
突き刺す。でも僕達は・・・・・・・それを黙って受け入れている。
激痛が走っても・・・・・肉が、骨がイヤな音をたてても僕達は・・・・・
何もしなかった。だってそれは・・・・・・・それが、
唯一の贖罪。殺している者が殺される者への
ただ一つできる事。
僕達は・・・・・・・・それでも笑っている。
痛さで?
それとも・・・・・・狂気で?
もしかしたらすでに狂っているのか?
誰が?
一緒に死ぬ事か?
妻はすでに血を出して笑っている。
「貴方は・・・・・アナタハ・・・・・・」まるで壊れた人形のように
同じ事を繰り返す妻に僕はどうする事も出来ない。
妻の顔を伝うように涙ではなく血が顔を、服を紅きモノで
染めていく。でも僕達にはどうする事もできない。
それがわかっているから僕達はただ笑うしかない。
魔王が復活した暁には僕達は真っ先に餌となるだろう、
その絶望に僕達は狂おうとしているのか?
魔物達はみな・・・・僕達が殺した者達だ・・・・。
内臓や贓物を剥き出しにゆっくりと僕達との間を縮めてくる。
彼らの光無い目はまるで僕達を何か物のように見つめている。
助けてくれ、とは僕は言えない。当たり前のことが出来ない。
だって彼らにも生活があって、待っている人がいる。
そうした彼らの営みを壊しておいて助けてくれ、は無い物だ。
・・・・・呪ってやる・・・・一生嘲笑ってやる・・・・・死ぬまで許さない。
みな怨嗟の瞳で僕達を見る。そうか・・・これが答えなのか・・・・
でも僕には反論できない。自分を許そうとは思っていないから。
だからいつもここで目が醒める。こうしてベッドで寝ている自分が
本当の自分なのか、それとも夢に出ている僕と恋人であるフローラこそが
本当の自分なのか・・・それはわからない。
今日は何も・・・・無かった・・・ベッドから見える光景が
満月だという事以外は・・・・。月の明かりに照らされる
二つの裸体を蒼く、突き刺すその光の痛みに僕は
思わず目を閉じる。
でも僕は見上げていた。天井の風景は満月を
映し出し、僕達の身体を蒼く染めている。
あれほど激しく愛し合ったのに僕は目が醒めてしまった。
「フローラ・・・・・。」僕は生まれたままの姿で
毛布に包まり抱き合っている妻の名を呼んだ。幾重にも重ねた毛布は
僕達の身体を温める。
そして恋人でもある妻は僕の胸の中で可愛い寝息を立てていた。
月の冷たさに僕は身をすくめフローラを抱きしめたまま、より毛布に包まろうとし
た。
そして僕は優しくフローラにキスをするつもりだった。その時フローラが目を覚まし
た事に
気がつかなかった。それでも僕はフローラにキスを交わそうとした。
そうすれば僕はまた眠りにつくことができる。
いつもこうしていなければ眠れない僕に呆れながら。
僕は・・・・・・・・・・分からなかった。僕の傷だらけの胸に身を預けるように
見つめている少女の悲しげな瞳に。エメラルドの瞳は僕をじっと見つめていた。
蒼い光の中、フローラの肢体はまるで月の女神のように美しかった。
僕は・・・目を逸らしたつもりだった。
でもフローラは僕の顔をこっちに向けさせる。
「・・・・・・・・・・明日は早いよ、ほらもう寝よう。」僕は出来る限りの笑みを
浮かべたつもりだった。
「・・・・・・・・・・・・あなたは嘘つきです。どうして自分をそんなに責めるの
ですか?」
エメラルドの瞳は僕を捕らえて離さない。
「フローラ。そんな事・・・・・。」
「そんな事ない、なんてありません。
どうして怖がるのですか・・・私がいるのに・・・
どうして・・・・一人で悩むの・・・・どうして・・・・。」
「フローラ・・・・・。」どうして分かってしまうんだ・・・
僕は・・・隠しているのに・・・。
「私も・・・・一人だったから。私は小さい時両親の勧めで故郷から
離され、修道院にいたの。でもすぐにね理由もなく私は隔離されたの・・・・
ずっと誰もいなかった、来なかった・・・誰も私の事を・・・すぐに避ける。
占いオババ様と修道院長以外は・・・・。誰も来なかった。
私には壁しかなかった。いつも見ている風景は壁だけだった。
冷たいって、誰かが言うの・・・私・・・・そんな事無いのに・・・・。
だから・・・・。だから分かったのです、貴方も・・・・私と同じだと。
最初から心を許そうとしない・・・」
「フローラ・・・・。」
「だから・・・・・嘘つきって言われたくない・・・・自分を演じるのに
私はもう我慢できない・・・・・ここまであなたと一つになって
これでもまだ自分を演じるのはイヤ・・・・・・・イヤ・・・・・。
いい子を演じるのもいや。裏切られるのもいや。お父さんとお母さんだけ、
私の事、分かってくれるのは・・・・。だからいや。それが辛くてイヤ。
優しくて・・・それがもっと辛くて・・・・人に優しくされるのがもっと・・・
辛くて・・・だから私は・・・・・笑みを浮かべるの。そうすれば
私のことをいい子だと思うから。それでも私はイヤ。いい子を
演じたくない・・・・」
フローラは目に涙を一杯に溜めながら笑おうとしていた。
それは自分が演じてきたフローラという偶像の限界だった。
フローラという少女が本当は一人だった事、
そしてどうしようも無いぐらいに自分を許そうとはしていない事、
それは僕そのものだった。
フローラの声は涙声になっていた。僕は優しく抱き寄せるとキスを交わした。
「うん、う、う・・・・。」フローラは涙を浮かべながら舌を絡ませてきた。
「フローラ・・・・。」僕はフローラの名前を呼びながら優しく胸を愛撫する。
フローラはその度ごとに嬌声をあげていく。そして僕は一つ一つ
キスと愛撫をした。
胸、乳首、耳・・・髪、キスを交わしたあと・・・ゆっくりと首の辺りを舐めて
胸の辺りをかるく舐め、齧る。そして舌を這わせたあと、乳首を丁寧に
嬲る。その都度フローラは感極まったのか涙を浮かべ僕のしている事に
キスで答えようとしているが僕はそれでもフローラを離さない。
そして・・・・・・・・・お臍を丁寧に舐め上げるとフローラの肢体はクタッと
僕を抱きしめ・・・僕はフローラの秘所を、一番敏感な場所を丁寧に舐め上げる。
一番敏感な場所を丁寧に愛撫するとフローラは電気が走ったように
痙攣をし愛液を溢れさせた。
「・・・・・・・・フローラ、フローラ、フローラ・・・・・。」僕は何度も恋人の
名を呼んだ。
それはまるでここにいていいんだよ、って言っているかのように、
存在を許しているかのように僕は丁寧にフローラの身体を舐め上げた。
フローラはすでに頬を赤らめ僕が次しようとしていることを待っている。
「・・・・・・・・・・・・シオンさん、ううん・・・シオン。私も何かしてあげた
い。」
フローラは僕にキスを交わすとゆっくりと大きくなっている肉棒に顔を近づけた。
「シオン、シオンさん・・・・シオン、シオン・・・・・・・。」フローラは僕の名
前を呼びつづけた。
そして優しく僕のを口に含む。
「ううう・・・・・・んんんん・・・・・うううう・・・・・・。」
フローラは口に含んだまま僕のほうを見上げる。それはまるで
扇情的というのだろうか、僕はそのままフローラを抱きしめる。
それでもフローラは拙い動きで僕を満たそうとしている。
「フローラ・・・もういいよ。」僕も涙を浮かべていた。なんでだろう・・・・。
何でこんなに心が暖かいのだろう・・・。それに心がとても痛い・・・。
「ほら・・・・・。」フローラの秘所はもうシーツを濡らすほどになっていた。
フローラは黙って頷くと僕はフローラの中に入って行った。
「あああ・・・・・・・・・・あふ。」フローラは僕の胸の中で小さく可愛い喘ぎ声
を出した。
暗闇の中僕は笑いたかった。フローラは一生懸命僕を受け入れている。
そして僕に迷惑がかからないように小指で口を塞いでいる。
それでもフローラは本能で腰を動かす。
「あっ・・・・・・・ああふっ・・・・。」
フローラは望んでいるかのように切なげな声を出した。
でも僕は分かっていた。お互いの心を許せるのは、自分だけだ
と言う事を。惨めになっている自分を、お互いを映し出す事で
僕達は慰め合いをしているに過ぎないと言う事を。
でも僕達は後悔をしていない。
この狭い部屋の中では僕達だけが生きることを許される。
そして僕達は生まれたままの姿で抱き合い、一つになり、
ゆっくりと、ゆっくりと愛を交わそうとしている。
僕達はこの微かに見える暗闇の部屋で
ゆっくりと僕達は一つになっている。そして・・・・僕達は・・・・・
涙を流しながらお互いの心を満たすように・・・・・
「フローラ、フローラ、フローラ・・・・・・・・。」
「シオン、シオン、シオン・・・・・・・。」僕達はずっとお互いの名を呼びつづけ
た。
僕達は・・・・・・・・・・ゆっくりとお互いが想いを遂げられるように愛し合っ
た。
僕はフローラの身体の奥にいる。そして動きを止めた。フローラは目に涙を溜め、
僕を見つめる。
「フローラ・・・・・・・・・・・・。」僕は頬を赤らめたままフローラを見つめ
る。
「シオン・・・・・・さん・・・・・・切ないの・・・・・・。」」フローラは僕を
受け入れたまま
僕の手をしっかりと交互に指を絡ませる。
僕達は・・・・・・・・・・・・・・・・抱き合ったまま身体を、お互いを強く、強
く・・・・・
フローラは僕のをしっかりと受け入れ、僕はゆっくりと、フローラが望むように
抱きしめた。フローラも僕をしっかりと抱きしめ僕は暗闇の中、涙を浮かべながら
みつめあっていた。
そして・・・・・・・・・フローラの子宮に届くところで・・・僕達は
想いを果たした。僕達は感じていた。
ドクッ、ドクッというまるで命の胎動の音が
フローラのお腹を優しく満たしていくことに。
そしてどのくらい経っただろうか・・・・。
「駄目・・・・・・・。」フローラは・・・・・僕の腕の中で涙を浮かべて果てた。
そして僕も・・・・・涙を浮かべてフローラを強く抱きしめた。
フローラも僕の背中に手を回す。
僕たちは・・・・深い眠りに落ちて行った。抱き合ったままで・
・・・繋がったままで・・・・僕達はゆっくりと泣いた。
指を絡める力が弱くなっても僕達は一生懸命抱きしめている。
僕達は・・・・・心のゆくまで泣いた。誰も咎めはしない。
僕達が許せるのは自分だけ。それでも構わない。誰かが前だけを見なさい
と言っても僕達は構わない。誰かに知ってもらおうとは思わない。
ただこうしていつもお互いを繋げておかないと僕達はどこかに行ってしまうから
だから・・・・・・・・・・それが嫌で辛くて、裏切られるのが恐くてイヤだから
・・・・・・僕達は眠りにつく。繋がったままで・・・・。
全ては・・・・・満月だけが知っている出来事・・・・・。
(終わり)
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