「蝉」修正版

ジジジ・・・・・・・・・・・蝉が木々の間から自分の存在を示すかのように
鳴り響く。まさに夏真っ盛りであった。
夏は早い。光陰矢のごとし、とはよく言ったものである。

2年目の夏、晩夏。初秋。
誰もいない部屋はさびしく京都はまだ日が高いというのに
未だに帰ってくる学生はいない。虹野沙希にはそれが
苦痛だった。というのも彼女は高熱を出してしまい個室で
寝込んでしまっていたのである。せっかくの修学旅行だというのに。
でもそんな時誰もいない旅館に彼が戻ってきた。汗をかき、
ただ虹野さんの事を気にしながら。
そして彼らは・・・・・本当の男女になった。

「あああ・・・・・・・・・・・あふっ」虹野沙希は思わず入ってくる異物に
涙を浮かべ受け入れる。そう彼女が望んだ事だから。
そして彼も望んだ事だから。

一つになりたい。

それでもくぐもった音と共に熱い肉棒が突き立てられ
シーツを掴む指にも力が入る。そして虹野の子宮まで
熱い肉棒が入っていく。それはまるで貫かれているよう。
「あああ・・・・・・・・貫かれているう・・・・貫かれている〜〜〜〜痛い、痛い」
「くっ・・・・・・・・・くうあああ・・・・・・・・・・・」彼からも何かうめき声がする。
涙まじりに自分の中へと入ってくる肉棒に虹野の手は宙を彷徨い
同じように彷徨っている彼の手を見つけると汗をかきながらお互いの手を、
指をからませた。そしてギュッと力強く握る。
「どこにも行かないで・・・・・駄目だから・・・・絶対どこにも・・・・・・
行っちゃ駄目・・・・・・・」苦しそうにうわ言で想いを告げようとする。
「離さないから・・・・・・離させない・・・・・・・」
それは虹野沙希という少女が一人の女性へと成長する証でもあった。
彼の肉棒を受け入れている彼女の秘所からは感じ取っているのだろうか、
破瓜の痛みに耐え切れず沙希の目から涙が溢れ、血と自分の
愛液と彼の精液が混ざった物が秘所から滴り落ちた。
そしてシーツに僅かばかりの血のあとをつけた。

それでも彼は突き立てるのを止めない。もしここで止めれば
彼女の気持ちを無碍にした事になる。それだけは嫌だった。
「ううう・・・・・」涙で顔が濡れている沙希を慰めるように
彼はキスを交す。
くぐもった音がようやく終わる頃、彼は一息つくことが出来た。
何か突き通った感触がした。それは彼女が少女から
一人の女性へとなった証でもあった。
目の前には沙希の顔がある。目からは涙が溢れている。
「うっ、全部・・・・・入った・・・・・・・・・ゆっくり動くからね・・・・」
「・・・・・・・・うん」お互いを強く抱きしめた二人はしばらくじっと
している。
彼は沙希の事を想い、動かずにいた。
「・・・・・・・・・・・・・・・行くよ・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい・・・・・・・・・」
ゆっくりと動き始める。
「・・・・・・・・・・・・・・・痛いけど・・・・・・・・・・・」
「うん・・・・我慢する・・・・だって・・・・貴方がいれば・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
一番好きになった人は一番愛している人になった。

グチュ、グチュ・・・・・・
最初は拙かった動きが次第に良くなっていく。それと同時に
沙希の肢体にも汗が噴出していた。
「痛い・・・・・・痛い・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・虹野さん・・・・・・・・」
形の良い胸を揉み、乳首を指先で転がす。
ツンと立っている沙希の乳首はそれだけでもピクッと
反応する。そして無我夢中で彼にしがみ付く。
それは彼も同じだった。互いを強く抱きしめて
想いを奥深くに放とうとしている。
「愛しているの・・・・・愛して・・・・・・・・・あうううううううう」
「ううううっ・・・・・・・・・・・・」
絶頂に達したのだろうか、二人の体が思わず痙攣し沙希の奥底に
白い愛液が叩きつけるかのようにドクッドクッと入っていく。
「はあ、はあ、はあ・・・・・・・・・・・・・・・」
「うはああ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
うくっ、うくっ、と二人はキスを交わす。
しばらくそのままの姿勢でいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」側に置いてある時計の音がカチッカチッと
静寂を突き破るように心地よい時を刻んでいく。
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」お互い無言で見詰め合う。
彼は沙希の乱れた髪を直してやった。汗で濡れた二人に
心地よい満足感が湧き出していた。
「誰もいない・・・・・・・・・」保健担当の先生もお土産を
買いに行っているのだろう、誰も来ない。
彼の呟きに虹野はクスッと笑う。
「でも・・・・・・・・・嬉しいな・・・・・・・入ってきたのが分かるの。
これで私たちは一つになったんだって」
「・・・・・・・・・・虹野さんの・・・・・」そう言おうとした彼の口を
虹野がキスで塞ぐ。
「沙希、そう呼んで。今だけ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沙希、膣中が
とても暖かい・・・・・・・・・・結ばれるってこういう意味なんだと
思う・・・・・・・・・・・」
「もう・・・・・・・・・・何を言うの・・・・・・・でも・・・・私も・・・・一杯
貴方を感じる・・・・・・・・・・お腹の中が満たされていくみたい・・・・
だから笑みがでるの。何となく・・・・・・・・」

二人はそのままの姿勢で想いを遂げようとしている。

「ねえ・・・・・・・キスしよ」
「そうだね・・・・・・・今度は・・・・・・・・」
「ねえ・・・・・一つの布団で生まれたままでキスするなんて・・・・
なんでキスするだけなのに・・・・・・どうしてこんなに
ドキドキするのかな・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
くちゅと言う音がしてお互いの舌が絡み合う。

「あふっ、あふっ・・・・・痛い・・・・・・・・」まだ突き通っただけの
秘所は痛みを彼女に与えていた。
「止めようか・・・・・・・・・・・」
「駄目・・・・・・・・・・・・・・・・・・止めちゃ・・・駄目・・・・・もう
離れられないから・・・・・だから貴方がいたという証を・・・・・
私に・・・・・・・・・・・もう貴方しか考えられないから・・・・だから
ずっと側に居て・・・・・・・・・・・・
ずっと・・・・・・・・だよ・・・・・・」涙混じりに沙希は話す。
「・・・・・そんな事言わなくても・・・・・・・・これから・・・ずっと一緒に・・・・・・・いる・・・・
君が望まなくても・・・・・・・オレは・・・君を愛し続ける・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・嬉しい・・・・・・私もずっと
貴方を・・・・・・愛し続けます・・・・・・貴方しか
いないから・・・・・」彼の胸で沙希の嗚咽の声がする。
「あふっ、あふっ、ああうあ・・・・・・あふっ、あふっ・・・・・あふっ・・・・・・・・
駄目・・・・・・・・・・ああ・・・・・・・・・・あああ・・・・・・・・・」
次第に沙希の可愛らしい口から嬌声が漏れる。突き刺す痛みがあるはずなのに
感じ始めているのだろう、彼の肉棒を受け入れ奥深くまで突き刺さっている
秘所にも沙希自身の愛液がしどとに溢れ始めていた。
「くうう・・・・・・・・・・・・」
「あああ・・・・・・・・・・・・・・・・・いっちゃう・・・・・・」
「おれと・・・・・・・・一緒に・・・・・・・・・・」
「うん・・・・・・・・・」ギュッと抱きしめる。そして沙希の肢体の奥で・・・・・
何かが弾け・・・・・・・・・・彼の胸の中の沙希の小さな絶叫と共に・・・・・・・精液が沙希の秘所へ注がれていった。

そしてキスからゆっくりと離れた口に伝う唾液はまるで橋のようになり、
拙い舌の動きは二人を官能の世界へと誘った。
「はあ、はあ・・・・・・・・」彼からも声が漏れる。
「・・・・・・・・・・・・・もう・・・・・・私風邪ひいていたのに・・・・・」
布団に倒れこんだ沙希は思わずウィンクをする。
さっきまで風邪をこじらせ身体の節々が痛かったのに
二人の汗がシーツに染みを作る。
「それにコンドームまでつけていないのに・・・・・・責任とってね」
「うっ・・・・・・・・・・・」
彼は思わず黙ってしまった。でも沙希はクスクス笑う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちゅ」
沙希のキスで彼は正気に返った。彼の唇にそっと人差し指をあてる。
「その時は私も同罪。でも「虹野さん」なんて
呼んじゃ駄目。今みたいに「沙希」って呼んで」
「・・・・・・・・・・プライベートじゃ駄目かな?」
「だ〜め」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・呼びたいのに・・・・・・・・」

「こうして・・・・・・赤ちゃんって出来るんだね・・・・・・・・・」
「ああ・・・・・・・・・・」彼の身体に寄りかかる虹野は
今まで肉棒が入っていたお腹をやさしく撫でる。上目遣いに
見上げる彼女は何か優しく今までに無い表情で彼を
見つめる。
「いつか私も・・・・・・・・・・・産みたいな・・・・・・・私の赤ちゃん・・・・そうしたら
・・・・・・・・いつか・・・・・・・私を・・・・・・・・貰って・・・・・・・・・・・・・・」
それは母性を感じさせる目だった。優しくてとても暖かい。
「・・・・・・・・・・・そうだね・・・・・・・・」
二人は分かっているのかもしれない。
でも今は・・・・・・・・・・・黙っていたい。

「ちょっと待って」彼の声に着替えようとしていた沙希は思わず
止まった。
「どうしたの?」
「これ・・・・・・・・・・・しておかないと」彼はそう言って虹野を抱き寄せる。
「きゃっ・・・・・・・・・・どうしたの・・・・・・?」甘え声をだしている虹野に彼は
ティッシュで虹野の肢体にこびり付いた精液を拭き始めた。
最初は身体。お臍・・・・そして性器。さっきまで肉棒を咥えこんでいた
秘所からはトロトロと精液が溢れている。それを見て虹野は思わず頬を赤らめる。
「ほら・・・・・・・・・・・・ちゅ」
「もう・・・・・・・・・・」頬を赤らめる虹野に彼は仕返しをばかりに
頬にキスをする。
「でも・・・・熱下がったみたい・・・・・・明日からあちこち見れるね」
胸元で青い髪が揺れる。それは彼の抱擁を受けているから。
そして彼の顔をじっと見上げる。どこか嬉しそうで
恋している目で潤みのある瞳でじっと彼を見つめる。
思わず目が合う。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」彼の頬が赤くなる。
「コホン。え〜っと・・・・・・・・・」
「あはははは・・・・・可愛い。笑うと可愛いんだ、雅仁君って」
「皆に言うなよ。特にあの伊集院に知られると洒落にならない。
どうせ嫌味を言われる」
「あはははは・・・・・・・・・やっぱり優しいね」
「そうかな・・・・・・・・・・」
「だって笑うと可愛い・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」それを聞いた彼はムスッと不機嫌になる。
「これは地だ・・・・・・・・・・それに・・・・・・・」
「今笑ったよ。噴出したよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沙希、目医者に行ったほうが・・・
俺は笑ってなんかいない・・・・・・・・・・」
「はいはい」
虹野沙希はただ笑う。彼は不機嫌になってソッポをむいていたがそれでも
彼女の手をギュッと握っている。沙希は応えるように握り返した。

「駄目だ・・・・・・・・・・・」着替え直した彼はそう言って手元のタオルを探したが見つからない。
「参ったな。見つからない・・・・・・代えのタオルは無いのかな?」
彼はゴソゴソあちこち探し始めたが無いので結局自分の部屋から
タオルを持ってきて濡らし沙希の額にのせた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・もうちょっと甘えておけば良かったかな?」
虹野の言葉に彼はもう一回聞きなおした。
「えっ?何?」
「ううん・・・・・・・・何でもない・・・・・・・何でもない」着替え終わった虹野は照れ隠しの
せいか頬を隠すとそのまますうすうと眠り始めた。
可愛い寝息が聞こえるのと同時に静かに彼は部屋を出ようとした。でも布団から出ている手が彼の手をギュッと握っている。
彼は困ったような素振りをしていたが納得すると沙希の手を握り返した。

蜩が鳴いている。どこかで。まだ鳴いている。京都の夏は暑い。

その表情はとても幸せそうだった。

一年目春〜〜〜初夏。
彼の名前は真崎雅仁。一応ときめき高校に入学した学生である。
だが彼の場合勉強もしたのだが本当は違ったところにあった。
彼は野球のスポーツ推薦を狙っていたのだが勉強の
成績が超低空飛行だった為他の学校の受験ができず
幼馴染の藤崎詩織と一緒に勉強した結果何とか勉強のほうで
ときめき高校に入学したのである。
そして野球部に入部した。その時のマネージャーが虹野沙希という
少女だった。

「おい・・・・また来ているぞ。あれどこのプロのスカウトだ?」
「誰が狙いだ?」
「あいつだろ、真崎に決まっている。あいつスポーツ推薦蹴ってこっちに
来たって話だもんな。いいよな、ああいうご身分は」
ヒソヒソ話を選手らがしているのを雅仁は黙って聴いていた。
聞きなれている、というのが本当の所であった。
練習の最中よくプロ野球の球団だろうか、何人かのスカウトが
ときめき高校の野球練習場に現れた。雰囲気で分かる。
双眼鏡は懐に。スピードガンのような物は持ってこない。
実際打者と勝負する感覚で見る。最後は直感がモノをいう。
そして改めてスピードガンで計測するのである。
もちろんお目当ては雅仁である。左腕ピッチャーで強打者となれば
地元の球団のスカウトらが目をつけないはずは無い。
それと同じように東京方面の球団や関西球団のスカウトもしばらくして
来るようになった。ようは雅仁詣で、である。
でも決めるのは彼ではない。大抵こうした場合監督や
両親が決めるのである。どこかでお見舞い金と称する裏金が
親や監督、球団の間を往復するのである。
それは本人にも知らない事。
分かっているのにそれを知らない、と言わなければ
成らない事、雅仁にはそれが苦痛でもあった。

だから思う。本当はもっと何か出来るんじゃないかと。
未来は変えられる、と思っていた。
でも違う。どこかでレールを認めなければならない。
最初は野球を楽しいと思っていたのに、それが何故か
苦痛にもなる。でもボールを投げるのは楽しい。
昔親父と公園でキャッチボールをしたのがとても懐かしい。
でも次第に親父はオレの投げたボールを捕れなくなった。

決められる進路なんて、というのもあった。
でも他の生徒で進学にしても就職にしても
大変だというのも分かっている。
スカウトの人たちを嘆かせる訳には行かない。
言うとおりに動くのは嫌だった。でもそれでも
認めなければならない。
だから自分に付きまとう友人なんて何が目的だか
分からない。それだったら最初から付き合いなんて
しなければお互い心を痛めると言うことは無い。
だから他人を拒否してしまう。
知っていても、心がそれを望んでいなくても、嫌だった。

スカウトの噂では真崎雅仁の指名はかなり上位に
食い込んでいて1〜2巡回目で指名される可能性があった。
中には球団主導で彼に社会人へと進ませて
あとで逆指名をさせようとする球団もあった。
また別の球団では将来の約束手形を用意してある所も
あり、引退後も球団幹部としての席を用意してあるという
ところもあった。またオリンピックへの参加を容認してある所もあった。
もちろんそこに動くのは金である。囲い込む為の金である。
裏金が動く。しかも数億、数千万という単位で。

それは知っている彼にとって負担となっていた。

彼は練習が終わると自分は片付けを率先してやり
後輩だけでなく同級生も先に帰らせて自分はゆっくりと
支度して帰っていた。こうすれば
少しはスカウトに話し掛けられることはない。
「ふう・・・・・・・・・・・」自分にはゆとりがない。
プロ野球なんて考えもしなかった。アマチュアの野球だったら
大学に入るか、社会人野球の方面に進むのが良いと思っていた。
もっと練習すればいずれは五輪に出てそれからでも
プロの水を浴びるのも悪くない・・・・そう考えていた。
高校生の投手は育ちが悪いと聞く。もしうまくいかなければ
他の方面で生活の道を探すしかないとも聞いている。
だが別の意見では高校生のうちに鍛え上げれば
あっという間に覚えていくというのもある。
それには勿論運や決め球という物が必要になってくる。
彼の場合よく切れるカミソリシュートとスローカーブである。

グラウンドを慣らしながら雅仁は腰に手をやる。ポンポンと
叩くと少し伸びをした。
サウスポーは中々いない。左腕はそうそう育たないという。
よく少年野球のチームから彼を見ていたスカウトが言うには
お前さんはスローイングが速く、肩も強いとそれに
何と言っても天性とも思えるその腹筋にあると言っていた。
もちろんプロがアマチュアと接触するのはご法度で、
たまたま見に来ていたということにしていた。
それでも彼は練習に打ち込んだ。夏などは真っ黒になりながらも
ボールを追いかけた。その結果中学の時には
速球派左腕の投手がいると有名になった。
高速で曲がるスライダー、シュート、キレのあるボール・・・それらを見て覚え
練習で使うようになると三振の山を試合で築くようになった。

2年目夏の終わり。

「ふう」
疲れた体を引きずるように学校の門をくぐる。あれから
一年が経ち、他校との試合も増えるようになった。
「もう・・・・・・夏も終わりかな」雅仁の足元にある
蝉の死骸が蟻に集られている。どこかの木から落ちた
らしい。道沿いに植えられている木々からそれでも
蝉の鳴き声がしている。

「嫌だな、どっか」確かに蝉時雨はしているのに
どこかに忍び寄ってくる秋。それが
恐ろしく嫌なものでどこかに寂しさを感じせずにいられない。
「雅仁君」
門のところに誰かいる。門に寄りかかり地面に視線を投げている。
その表情は暗く、寂しそうに見える。
でも気配に気づくと明るい笑顔を彼に向けた。
「虹野さん・・・・・・・・」
そこにいたのはマネージャーを務める彼の同級生の虹野沙希だった。
「練習終わったというから皆帰ったのに雅仁君だけ来ないから
どうしたのかなって思って」
「そう・・・・・・・・・・」
「頑張って!!あと少しだから」沙希は握りこぶしをつくる。
「そうか・・・・・・あと少しか」

ここ数年のときめき高校の野球部は雅仁の入部だけでなく
有望株の部員が多数入部した。それでも
地区大会は決勝戦で一敗してしまい甲子園へ行けず涙を飲んだ。だがその力は
間違いなくアップしていた。
そのためか、もともといたレギュラーを張っていた連中も
目の色をかえて練習に参加した為
相乗効果という好結果を齎す事になった。

そんな時彼は一人のマネージャーに出会った。それが虹野沙希であった。
彼女は皆に好かれていた。根性とかそういう物を表にだす少女。
野球も好きだけどルールもよく分からない。でも「頑張って」って
言う少女。雅仁は次第に彼女に惹かれていった。好きになっていたかも
しれない。

「ねえ、今度みのりちゃんもうちのマネージャーやるって言っているよ」
「そう・・・・・・・・・」彼女の言葉にいつもでてくる少女。
確かサッカー部のマネージャーをしていると聞いていたが。
このコは虹野さんを慕っている。だからいつもいる。
虹野さんはいろいろと話してくれる。
学校で起きた事、弁当が美味く出来たこと・・・・・
雅仁はそれを何となく頷く。

並木道を歩く。木々には蝉が鳴き、自分達の存在を
示しているよう。
「あれ・・・・・・?」不意に虹野さんが上を見上げる。
「どうしたの?」
「蝉・・・・・・・・・静かになっちゃった・・・あれほど鳴いていたのに」
「蝉か・・・・・・・・・」二人して木の上を見上げる。
猛暑という程ではないがどこかに秋という物が忍び寄ってくる。
それに風に踊る葉が二人の周りを舞う。

ひゅう。

風踊る葉はまるでダンスを踊るように舞いどこかへと
吹き飛ばす。
何故か二人はその葉の行方を知りたいと思った。

「もう終わりだね。そうだ、雅仁君、今度映画見に行こうよ」
彼は彼女の嗜好を知っている。彼女はこう見えても
感動的な映画よりもアクション映画が好きなのだ。
最初彼はどうしてそんなものが好きなのかと思った。
でも彼にはそんな気になれなかった。何故か分からない。
たださっき見た蝉の死骸や静かになった蝉時雨を聞いて
どこか感傷に浸りたいと思ったのかもしれない。

「どこか・・・・行きたいな・・・・・・」彼の呟いた言葉に虹野は驚いた。
「えっ?」
「どこかに・・・・旅行に行きたいな・・・・・・・」
「どうしたの?」
「あ、いや・・・何でもない」
「ねえ・・・清川さんって知っている?」不意に彼女はみのりちゃんから
聞いた話を持ちかけた。こうした話をするのは躊躇っていた。
「清川・・・・・・・・・どこかで聞いたことがあるなあ・・・誰だっけ?」
「もう・・・・・・知らないの?」

彼には分からなかった。水泳で国体にまで行ける
生徒が入学したと噂で持ちきりに成った事があった。
ただ彼は聞いていなかっただけである。
「そう言えば・・・・・・校門をくぐった時数人誰か
分からないけど囲まれていた生徒がいたな。髪が短めで・・・・・・・」
「そうそう・・・・・・・・・」
今になると虹野沙希には何かこうした女性の話は嫌だった。
真崎雅仁と良いカップルになるんじゃないかと
思っていた。それだけ絵になると。クールな彼が誰かと付き合っているという
話は未だに無いが同級生達がそうした話をしていると
何故か嫌な気分になる。どうしてだか分からない。

彼の左にいつもいるのは私。
私じゃなければ彼の微妙な心の差異に気づかない。
藤崎詩織という幼馴染が彼にいたとしても。何故か負けたくないと思う。

その感情が私を嫉妬へと駆り立てる。負けるもんか・・・・
私はいつも彼と一緒にいるの・・・・・それなのに
どうして一緒のクラスじゃないの・・・・詩織・・・・・・・・さん・・・・
負けたくないよう・・・・・・・負けたくないよう・・・・・・・・・・

いつも藤崎詩織を意識する。雅仁のお弁当を作ってあげてもどこかで
藤崎詩織を目で追いかけている。
だから思う。
自分は学園のアイドルじゃない。あんなに活躍できるとは思っていない。
ましてや清川望のような超がつく水泳選手でもない。鏡 魅羅のように
色気があるわけでもない。どこにでもいる学生。
でも隣を歩いている彼は私の事どう思っているか分からない。

ある時・・・・・・・・・・沙希は詩織に助けられた事があった。
階段で転んでしまい足首を捻挫した時側に居た詩織に助けられた。
「ねえ、大丈夫?」詩織が手を伸ばす。
「あ・・・・・・・・・・・・・・・・」沙希はその手をじっと見て躊躇う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」詩織はどうしたの、という表情をする。
「ほら・・・・・・・・・・・・・」手をもう一回伸ばす。

パシン。

乾いた音がして沙希が詩織の手を払いのけていた。そして
ゆっくりと立ち上がる。
「・・・・・・・・・・・・・どうしたの!」
乾いた音を聞いて藤崎の友人らが駆け寄る。
「大丈夫・・・・・・・・」詩織は沙希を見上げる。
「どうしたの?」詩織の声に虹野はビクッとした。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・余計な事しないで・・・・・・・」足を引きずりながら
沙希は歩き始めた。
「ちょっと!!」それでも引きとめようとする詩織を余所に沙希は
後悔の目を向ける。それは慙愧の篭った目だった。

後悔?慙愧?嫌な感情。

「いいから!!私に触らないで!!」沙希はそのまま階段を下りていく。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・私って最低。助けられた相手が誰か知っていたのに。
今の私にはそれしか存在理由がない。

嫌な感情。でもそれがないと私はどうする事も出来ない。
「情けないよ・・・・・・・・・・・泣きたくなる・・・・・・・・・」
自宅でシャワーを浴びながら自問する。その答えは未だに無い。
濡れた髪は重く、嫌な気分と共に心に圧し掛かる。
暖かいシャワーの湯滴が私の身体を温めたとしても
その心は黒く、重くなる。

そして彼をそのまま私のところに置いておきたい。
誰にも彼を渡さない。もし煉獄なる物があるのだとしたら
きっと私はそこ落ちるだろう。それでも構わない。
だから誰にも・・・・・・・・負けたくない。これだけは譲れない。

でも・・・・・・・・一つだけ分かった・・・・・そうこの感情が嫉妬だと気がついた時には
彼の事を好きになっていた。

でも彼は清川さんに興味が無かった。無関心だった。
「ほんとに知らないの?」沙希の言葉に彼は黙って頷いた。

それからしばらくして清川さんが彼の机の前までやって来た。
どこかで噂を聞いていたのだろう。彼の机を囲んでいた
連中にも好奇心で望と雅仁を交互に見る。
何をするつもりなんだろう、野球の申し子と水泳の申し子が
交際でもすればこれほど凄い事は無い、
そんな期待感が教室を覆い始めた。

「ねえ、凄いだってね、君ってさ」頬杖をつき外を見ている雅仁に清川さんは
ニコニコと笑う。
「・・・・・・・・・・・・・」目だけ望のほうに向ける。
「プロ野球選手の卵さんがいるって聞いたから・・・・・水泳
やらないの?」
「・・・・・・・・・・・興味ない」
「そう。そんなに立派な体つきしているんだから水泳も大丈夫じゃ
ないかなと思うんだけど・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」ノートにスラスラとペンを走らせている
彼をみて清川さんは一言呟いた。
「へえ〜ほんとに左利きなんだ」
「サウスポーだからな・・・・・・・・・・」
「ねえ、今度見に来てよ。歓迎するからさ」
「そのうちに」
清川さんはそう行って教室を出て行った。
大勢の生徒からため息が漏れた。肩透かしといったところだろう。
「いいの?」離れた席に座っていた藤崎詩織が
話し掛ける。
「良いんだ・・・・それにオレにはちょっと似合わない」
「そうかなあ・・・・・・・」
「小さい頃から野球ばっかやっていた奴には他の事なんて
分からないさ。それにあの清川さんだって小さい頃から
水泳ならたぶん同じさ」
「そんなものなの?」
「そんなもんさ」
「さてと・・・・・・・・」彼はそう言って席を立つ。
「どこか行くの?」
「弁当足りないからパンでも買ってくる・・・・・・」

「あいつさ、どこか冷めているんだよなあ・・・・・」机を
囲む早乙女良雄ら友人達の声がする。それでも
彼から離れないのは彼にはそれなりの魅力があるからだろうか。
そこが良いと言う女性陣もいたがやはりどこかに影がある。
取っ付き難いのである。簡単に言うなら。
お山の大将にも成りかねないその性格を見て野球部の監督は
彼に中継ぎピッチャーという仕事を最初与えた。
失点しても彼を下ろすことなく徹底的に使い続けた。
これでもか、これでもか、というぐらいに。
そして頃合をみて彼を先発に起用した。
それが成功し、三振の山を築くようになった。
でも性格は中々治らなかった。悪い意味でのお山の大将に
成る事は無かったが。

「あっ、雅仁君。お出かけ?」途中誰かに声をかけられる。
虹野さんである。
「虹野さん・・・・どうしたの?」
「外で食べようと思って。雅仁君は?」
「パンでも買ってこようと思って」
何人かの生徒が走ったり駄弁っている。
その中を二人くだらない話で盛り上がる。
「一緒に食べない?」
「・・・・・・・・・・・・・良いよ」

彼は購買部へと走り出していた。

先生から修学旅行の書類を受け取ったのはその日の
ホームルームだった。場所は京都。陳腐と言えば陳腐だが
日本の歴史を知るうえでこれほど適した場所は無い。
「いいか〜〜〜修学旅行というのは〜〜〜〜〜」
長ったらしい先生の話を適当に聞きながら生徒達は
楽しくなるであろう旅行の思いに馳せている。
「修学旅行か・・・・・・・」そう言えば入学当初生活指導の先生が
こんな事を言っていたのを思い出した。
「ここの修学旅行は沖縄、京都、北海道と年々行き先が変わるんだって
言っていたな。去年は沖縄か・・・・・・・海で泳ぎたかったな」
そう言って彼は虹野とプールに行ったことを思い出した。
「確か虹野さんの足が攣ってしまって・・・・・オレが
人工呼吸しようとした瞬間目を覚まして・・・・・
それから・・・・・・・・よく聞き取れなかったけど・・・・・・・え〜っと・・・・・・・」
そこまで言って彼は教科書で頭を叩かれた。
「思い出したか、真崎?」すでにホームルームの先生が彼の側にいて
教科書で叩いていた。
「す、すみません」慌てて教科書を出す。
「全く・・・・・・・・誰かどうこうするのは良いが修学旅行で
こうはならないようにな」
「オレはそんなに信用無いですか・・・・・・・・」
「東本願寺の周辺でお前どこかに行くんじゃないぞ。ちゃんと
指定された場所を回るんだぞ」
先生の他愛も無い冗談に生徒の数人が笑う。
チラッと伊集院のほうを見る。笑いもしないが何か含みのあるあの表情が
いやに気になった。
(また言われるな・・・・・・・・・・・)
その日彼は伊集院に散々言われた。高笑いと共に。

練習が終わって彼と虹野さんが一緒に歩いている。日暮、夕暮れ・・・雰囲気は
何でも似合う。二人の影が伸び、どこまでも彼らについていく。
何時からか、影が伸びたような気がする。
もう夏が終わろうとしているのだろうか。いつかはっきりとした形で
秋が来たと分かる時が来るのだろうか。
あの時舞った葉のように茶色に染まりし葉は二人のまわりを回り、旅愁というものを
感じさせるのだろうか。

「蝉・・・・・・いないな」
「そうだね・・・・・・・・・・」
「京都行けるね?良かったね、雅仁君」虹野は
一週間かけて行く修学旅行の話をする。
「ああ」それっきり会話が途切れる。
どうも話が合わない。でも虹野は別に気にしていない。いつもの
事だから。
「そうだ、今度の修学旅行一緒に回らない?西の本願寺と東の本願寺、
東寺も行ってみたいし・・・・・羅生門跡地にも」
「ああ・・・・・・・・」
「そうそうさっき調べたんだけど東本願寺の近くに美味しいワッフルを
食べさせてくれるコーヒーショップがあるんだって」
「行けるかな・・・そこまで」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・う〜んやっぱ無理かな。えへへ・・・・・」
「烏丸にも行けるかどうか分からないんだろう」
「うん・・・・・・・・・・」
「見学の意味で二条城には行けるのか・・・・・京都御所も
大丈夫みたいだな・・・・・・・・」パンフを見ながら歩く雅仁。
「ねえ、一緒に行きましょ。その時は」
「ああ・・・・・・・・・・」
そこでもまた会話が途切れる。
でも彼女は分かっている。それが彼の良いところなんだと。
これが彼の性格だと言う事を。

そしてとてもさびしそうな顔をする。じっと見つめるその空の先。
その瞳に何が写っているのか分からない。
赤く写っている夕日を見たのだろうか。それとも
生い茂る葉を見て木々を見たのだろうか。
溶けてしまいそうになる青い空を見たのだろうか。
赤い光に照らされる入道雲を見て・・・・・・飛び跳ねるように
舞う赤蜻蛉を見て何を思うのか。

蜩はまだ鳴いている。自分の存在を示すかのように。

虹野は先を歩く彼をじっと見つめる。
赤い夕日の中彼は虹野に目をかけずそのまま歩いていく。
どこかで冷めている目をしている。
それでも彼女は彼を追いかける。

「駄目だよ〜〜〜私を置いていくのは」
可愛らしくウィンクする虹野に雅仁はドキッとする。
そして雅仁の先を歩いてはクルクルと踊るように
楽しそうに歩く。そして雅仁の歩調に合わせる。
まるで彼の側にいるのが楽しくて仕方がないという雰囲気である。
(このコのおかげでオレは救われた。どこかで誰か
見ていて欲しいと思っていた。誰でもいい、見ていてほしい)
「どうしたの?雅仁君。私の顔見て?」ポッと顔を赤らめる虹野さんに
彼は何も言わなかった。
(このままで良いのだろうか。彼女と別れたら俺はきっと後悔する。
いずれ卒業して・・・・別々の道を歩む時がくる。それだけは嫌だ。
何時までもこうして虹野さんの側にいたい。そうしていたい。
後悔するのはもう嫌だ。迷いたくない・・・・・・)
虹野はそう思っている雅仁を余所にクルクルと回りカバンを持ちながら
先を歩く。

その瞬間彼は虹野の手をギュッと掴んでいた。
「えっ、どうしたの?」その表情はこれから起きる事を知っているを期待しているかの
ように見える。そしておもっきり抱き寄せる。
黄昏の、金色と夕暮れの支配するカラーはとても奇妙で
それでいて旅愁を誘い、なんとも言えない雰囲気を醸し出す。
そして永遠とも思えるぐらいに続く電信柱。そそり立つ柱は
奇妙なオブジェとして存在し、斜光を受けて大きな影を作る。
その中で抱き寄せる二人。
何も、誰もいないのに。通り過ぎる人もいないのに。
蜩だけが鳴き、赤蜻蛉が舞う。

でも二人にはこれから起きる事が何であるのか知っている。
もしかしたら永遠の誓いになるかもしれない。
それでも構わない。いつかそうなるかもしれない。
あの古い大きな木の下で告白されるよりも先に。

「虹野さん・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」微妙な雰囲気を察したのか虹野の頬が
赤くなる。どこかでそうしてくれる事を期待していたのかもしれない。
これから何をして欲しいのか二人はもう分かっていた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」軽く唇が触れ合う。それだけでもいい。
雅仁はギュッと抱きしめた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・離さないでね・・・・・」
「ああ・・・・・・・・・・」
「もっと強く抱きしめて」
「ああ」ギュッと強く抱きしめる雅仁。
「ねえ・・・・心臓がトクン、トクンって言っているよ」
「君も・・・・・・・・・」
「あれ・・・・・・・・・・・・・・」
虹野は心音を聞かれないようにしていたがそれでも
聞こえていたようだ。
「私・・・・きっと忘れないから。卒業しても・・・・
絶対に・・・絶対忘れないから」
「・・・・・・・・オレも・・・・・・・・・ずっと・・・・・・・」

虹野と雅仁の頬が赤くなっている。それは夕暮れのせいではない。
でも蜩の旅愁を誘う声が聞こえる。影が大きく伸びる。
「私も・・・・・強く・・・・・・・・」雅仁を強く抱きしめる。ちょっと見上げると
彼の顔がある。沙希は潤んだ瞳を閉じる。赤く染まった頬に
ちょっと突き出した唇。サラサラと風に揺れる青い髪。
「・・・・・・・・・シャンプーの香りがする」
「さっき汗かいたからシャワー浴びたの・・・・・・でも・・・・・」
「そっか」

チュッ。
虹野さんが何か言おうとした時見計らってキスを交わした。
しばらく蜩の音の中キスを交す。
「ううん・・・・・・」
「うん・・・・・・・・・・」二人の声がする。辺りには誰も無い。
そして熱い吐息と共に・・・・・・・絡み合っていた彼の舌が沙希の口から
出てくる。二人とも目が潤んでいる。
「ううん・・・・・・・・ズルイ・・・・・・・」
「良いんだよ、俺は・・・・・・・・・・」
「もう・・・・・・・・・・・・・・」

「肩組んでいい・・・・・・・・・?」
「良いよ」ギュッと雅仁の腕にからみつく虹野。
「たまには良いと思うんだ、こういうシチュエーションって」
「例えば?」
「恋人が凄い世界で生きていてその悩みにどうする事も出来ず
ただそれを見つめているヒロインがいて・・・・幼馴染や色々な人に励まされたり
するのだけどそれでも悩みをどうする事も出来なくて
ヒロインの恋人が励ますっていうお話。それで癒されるの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、どう?こういうシチュエーション?」
「・・・・・・・・・・・・・恋愛系は好きじゃなかったのか?確かお気に入りの映画は「スピード」じゃなかったか?」
「イジワル・・・・・・・でもたまにはこういうのも良いじゃないかな」
「やれやれ・・・・・・・・・」お気に入りのナイキのブラックボストンバッグを担ぎなおす。

虹野さんが寄りかかる。肩に寄りかかるように歩く。

・・・・・・・・・・・だから貴方の事想う。
・・・・・・・・・・・だから貴女の事想おう。

二人の影がひとつになっていた。
それはいつまでも続いている。

蜩はまだ鳴いている。
(終わり)

ばい・おんしー

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