For Minami Kurihashi
初めてお客様に向かってあんな口をきいてしまった。
お客様の前で泣いてしまった。
最低だ。駅員として落第だ。
記者の赤木さんだって、悪気があったんじゃない。それはわかってる。
でも許せなかった。だからって……駅員として許されることじゃない。
私、これからどうすればいいんだろう……。
とぼとぼと、私は事務室に引き上げた。
あれ? あっちから、聞き覚えのある声がする。
「待てよ! あんたたち、みなみを泣かせただろ!!」
剛志!? どうしてここに?
「みなみに謝れ……謝れって言ってんだよ!!」
あれは付き合って3年になる私の彼、木崎剛志(きざき・ごうし)だ。
剛志は、通路の片隅で赤木さんに詰めよっている。
カメラマンの鳥山さんは驚いたのか動けない。
周りには人垣ができている。
「みなみの仕事の邪魔して、しかも泣かせてそれで平気なのか!あんたら、それでも男か!記事を書くためなら事故が起きて、客が死んでも構わない、それがあんたらのやり方か。あんたらなんかに、とても鉄道の記事を書く資格なんかねえ!」
剛志、やめて。私が悪いんだから。
止めなくちゃ……でも、足が動かない。
「あいつは確かにバカだ。おしゃべりで、お調子者で、空気なんか読めやしない。俺は電車のことなんかまるでわからない。だからろくに聞いてないのに、それでも電車のことをベラベラしゃべってくる。モハ? クハ? なんだそりゃ、だ」
そうだよね、剛志。私ってホントにバカ。
でも剛志、どうしてここに?
ひょっとして、ずっと見てたの!? 仕事を休んで?
「でも、俺はあのバカが好きだ。ホントどうしようもないバカだけど、それでも好きな大バカ野郎だ」
剛志……。
「いいか、あいつが笑わなくなったら、北千住駅はだめになる。絶対だめになるぞ!この駅にはなあ、あいつが必要なんだよ!!」
「剛志、もうやめて!」
私は見かねて飛び出した。
「みなみ?」
私の顔を見て、少し剛志は驚いたようだ。が、すぐ怒りの表情に戻った。
「こいつら、お前の仕事の邪魔したんだぞ! あやうく客を殺す所だったんだぞ!鉄道なんとか法違反じゃないのか!?」
「もういいの、調子に乗り過ぎた私がいけないんだから」
半泣きで止める私を見て、剛志は険しい表情を緩めた。
周りのお客さんの視線は、明らかに剛志に味方している。
鳥山さんと赤木さんは、いたたまれない様子だ。
「すみませんでした」
「調子に乗り過ぎたのは、私たちです。本当に申し訳ありませんでした」
二人は頭を下げて謝った。
「そ、そんな、もう……」
言いかけた私を、剛志が遮った。
「みなみの気持ち、わかってんだろうな! 今度こんな真似したら、ただじゃおかねえぞ!」
「は、はい……」
剛志ににらまれ、すごすごと二人は退散していった。
「事務室戻るか?」
「う、うん」
剛志に抱えられるようにして、私は歩き出した。
後ろから、パチ、パチ、と手を叩く音がする。
お客さんからの拍手はたちまち大きくなった。
剛志に向けられた拍手なのに、なんだか私が恥ずかしい。
照れ笑いしながら、私たちは事務室に戻った。
結局、広報の人も交えた話し合いの末、赤木さんが謝罪することで決着したのだが、これは後日の話だ。
あの取材騒動から数日。
私は何事もなかったかのように、いつもの仕事に戻っていた。
でも、あれから剛志とは会っていない。
剛志も、私も忙しくてなかなか会えない。
毎日メールの交換はしているし、時間が少しできたら電話もしているけど、それだけじゃ寂しくて仕方ない。
今夜は夜勤だ。もう、電車は全部終わっている。
さっきから私は事務室で、黙々と日誌をつけている。
ペンを止めて、ふと部屋を見回してみた。
部屋には、私一人しかいない。
寂しいよ……。
剛志……。
あの時、私のために怒ってくれた剛志……。
東武の工場に勤めてた、お父さんの匂い……。
子供の頃出会った、あの駅員さんの匂い……。
そして、それを思い出させてくれた剛志の匂い……。
机の上にある、剛志と私の写真を、私は抱きしめていた。
会いたい……会いたいよ……剛志……。
体の奥が熱くなってくる。
自然にスカートの中に、手が伸びていた。
だめ、だめ……勤務中にこんなことしちゃ……でも、止まらない……。
左手で胸を揉み揉み、右手でショーツの上からあそこに触れてみた。
「ふぁん……濡れてる……」
こんなに濡れてる……。
剛志……。
私は剛志を思いながら、より強く手を動かし始めた。
剛志……ここ、いいの……なめて……いじって……吸って……。
「ああ……剛志……剛志……」
ショーツの中に手を入れ、あそこの穴に指を入れる。
出したり入れたり……あ、ちょっと……おしっこしたいような……でも……止まらない……。
剛志、剛志……好き、好き……大好き……いっぱいしてぇ……。
指を奥まで入れ、剛志を思いながら出したり入れたり。
「ふぁ、ああ、あう……剛志……」
頭の隅がぼやけてきた。そろそろ、絶頂が近いかも。
……いい、いく、いくぅ……剛志も?いいよぉ、中にいっぱい出して……。
「剛志、剛志、うう、ああ、剛志ーーー!!」
目の前が真っ白になった、と同時に、ショーツをはいたまま、私は思い切りおもらしをしてしまった。
じょろろろろ……ああ、おしっこ出ちゃった……。
「どうした、みなみ!?」
えええっ!?
ドアを開けて飛び込んできた人物の顔を見て、私は固まった。
「みなみ……」
剛志も私の痴態を見て、驚いて固まっている。
おもらしでスカートを濡らしている私を見て。
「ご、ごめんなさい……」
私は泣き出した。
「私……寂しくて……剛志と…………こと……したくて……」
あれ……私……何言ってるんだろう……。
「剛志に……いっぱい……してほしくて……だから……我慢できなくて……一人で……ごめんなさい……ごめんなさい……」
軽蔑したよね、剛志……おもらしなんかしてる私なんて……。
「ぶってもいい……蹴飛ばしたっていい……でもお願い、嫌いにならないで……」
「な、何言ってんだよっ!」
いきなり、剛志が私の両手を握りしめた。
「俺だって……俺だって、みなみと、Hなことしたくてたまらなかったんだぞ! 制服姿のみなみに、いっぱいいたずらしてみたかったんだぞ! スカートめくったり、パンツぬがしたり……毎晩、毎晩、制服姿のみなみとHするとこ想像してオナってたぞ!」
剛志……。
「剛志……剛志!!」
私は剛志の胸に顔を埋めて、思い切り泣いた。
「んん……ん、んんん……」
私と剛志は、延々と、キスを続けた。
舌を絡め、吸い上げ、むさぼった。
「ん……」
唇が離れた時、糸の橋が架かった。
「あ、剛志、ちょ、ちょっと……」
剛志は私のスカートをたくし上げると、ショーツの上からあそこをなめ始めた。
「だ、だめ、そんなとこ、汚いよ……」
それでも剛志は構わずに、ショーツの上からあそこを舌で攻めてくる。
ビリビリと、高圧電流が流れるようなこの感じ。
「おしっこの味がするよ……それに……さっきよりもっと濡れてきてる」
「いやあ……言わないで……」
私はいやいやをした。その時、足取りがふらつくのを感じた。
「もう限界? じゃあ、そろそろ……」
剛志はドロドロの蜜とおしっこで濡れたショーツを掴むと、一気に引き下ろした。
私は片足を上げ、ショーツを抜き取らせた。
「いくぞ……」
「うん……」
私は静かに頷いた。
剛志はズボンを降ろして、連結器を出した。
二人の下半身が密着する、と同時に……
「ああうん!!」
一気に連結器が私を貫いた。
連結器が奥まで届くと同時に、剛志は私の腰を抱えて持ち上げた。
駅の事務室で、『駅弁』という格好だ。
「んっ! あぁっ!あん!」
奥を温かい肉の連結器が突く。
狭いトンネルの奥を、連結器が突く。
「もっと、もっとして……んん……」
舌を一層、激しく絡めあう。
「いっぱい、いっぱいして……もっとお……」
腰をぶつけ合う、粘膜をぶつけ合う音が、部屋に響く。
「あ……もうだめ、いく、いっちゃう!!」
「俺ももう、出るっ……」
剛志も、もう限界が近いようだった。
「好き、好き、剛志、好き、大好きー!!」
「みなみ、好きだよ!」
目の前が再び真っ白になる。
濁流が中に打ち付けられるのを感じながら、私は達した。
濡れた制服は、クリーニングに出すしかなかった。
予備の制服があるから大丈夫だけど。
結局私服に着替え、日報に『異常なし』と書いて、仕事は終わった。
異常は大ありだけど。
「苦しそうな声上げてたから、俺のこと呼んでたから……何かと思って……」
「ごめんなさい……」
剛志が差し入れに買ってきてくれたコンビニ弁当を食べながら、私は真っ赤になった。
食べ終わったのを見計らって、剛志が話を切り出した。
「それと、実は差し入れだけじゃなくて、これ渡したくて……」
まさか、まさか……指輪!?
……と思ったら、紙に包まれた、カード状の物だった。そんな、安っぽいドラマみたいなことないよね。
「開けてみて」
剛志に促されて封を開ける。すると……
『剛志ー南栗橋』
定期券だった。でも何月何日まで、というところを『無期限』と書き直してある。
「俺発、みなみ行き、期間無期限のパスだ」
剛志という名前の駅は、伊勢崎線にある。いつかデートで行ったんだっけ。
剛志、覚えてたんだ……。
「指輪はまだ先になるけど、せめて、これを受け取って欲しくて」
「剛志……ありがとう剛志……」
私はまた剛志に抱きついて、大声で泣きじゃくり始めた。
『まもなく、3番線に区間急行、浅草行きがまいります』
『まもなく、1番線に急行、南栗橋行きがまいります』
おはようございます。毎度ご乗車ありがとうございます。
ご用の際は、いつでも声をおかけ下さい。
それでは今日も元気に、行ってらっしゃい!!
END
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