the doom(右手の痛み:修正)

 荘子はある日、自分が蝶になった夢を見た・・・・。
 そして、目覚めて彼は思った。
『果たして今の自分は本当に人間なのだろうか。
実は胡蝶で、これは胡蝶の見ている夢なのではないか。現実には蝶であり、その夢の中で、こうして人間の姿を
しているのではないか』

現実と夢想の区別がつかないからこそ自分という自我が分からない。
だからこそ生きるという意志がはっきりとつかめない。
生きる価値があるかどうかはっきりしないから
生かされているだけの存在でしかないのか。
本当に私は必要とされているのか、それとも
ただの一羽の胡蝶としての私の価値が始まっているのか・・・・私にはわからない。
それでも私はあえて思います。私って何ですか。すべてがぼやけてしまう。
私が無くなる・・・・でも私は思う。

私は・・・・・一体何ですか。

修道院の外はゆっくりと日が暮れようとしていますが
私は未だに夢の中にいました。
そのうち私はゆっくりと目を開けました。
暗く灯りすら灯さない部屋は誰もおらず
かわりに化膿止めの薬が寝ているベッドの側に置かれていました。
私はゆっくりと天井を見つめました。何もない天井には
弱弱しいランプが灯り、そのランプの影がユラユラと私を灯し
揺れています。
そして部屋にある鏡には私の姿が映っている。
鏡の私は虚無の目をして私に笑いかける。
私は笑いたいとは思わない。
鏡の私は口元を歪ませ、残酷な笑みを浮べ嘲笑う。

「笑う権利なんて無いのに。生きる資格すらないのに」

身体は重く、右手は幾重にも包帯が巻かれているのが手にとるように
分かります。
「そう・・・・まだ生きているんですね」
それもいつも言っている。だが誰もいない。聞いてくれる人などいやしないのに。
ギシギシとベッドが音を立てます。でも起きる気力がありません。
身体が鈍重なのかそれともまだ寝ていたいのかは分かりません。
ただ目には涙が溢れ包帯が巻かれている腕を見ては何も言わず
抉られたような傷跡からはジクジクと薄っすらと血が包帯に滲み出してきます。
それでも言える事は・・・・・生きている・・・情けないほどに。

「笑うなんておこがましいですね」

私は衣服を整えるとゆっくりと身体を伸びしてみました。
骨が軋み、軽く骨が鳴る音がしましたが
あれからどのくらい寝ていたのかわかりません。でも自分には記憶が無い。
そうしているうちに楽しい出来事を思い出しました。
確か花を、白い花を見ていて・・・・自分が生きているという価値を
確かめようとしたのを覚えています。その後・・・・どうしたか
覚えていません。ただ言える事は手にしていた鋏で
自分の右腕を何度も突き刺し抉り暖かい血が噴き出てくるのを笑いながら
楽しんでいたと言う事です。

「刺しちゃいなよ・・・・・・」
「そうだ、刺しちゃえ」
「だってさ、刺しちゃったらきっと楽しいよ」
私は命ぜられるままに右腕を鋏で突き刺しました。何度も。

そんな密かな楽しみをたまたまそこに居合せた
マリアとかいう修道院の少女に邪魔されて
せっかくの白い花に色をつけてあげようとした私の善意を理解してくれなかった
事に憤りを感じマリアを詰ったことを思い出します。
「どうしてそんな事をするのよ!!」マリアさんはそう怒っていたが
私にはまるで分かりません。
「あなた自殺する所だったのよ!!!」マリアさんは怒鳴っています。でも
私にはそんな事聞こえません。

だって貴女に関係無いじゃないですか、それとも貴女が私の将来を
教えてくれるのですか?変えてくれるのですか?
目の前でマリアさんという少女は私に怒鳴っています。
「貴女は死にたいの!!どうして自殺なんてしようとしたの!!!」
「止めてよ!!!」マリアさんは私の鋏を手で叩き地面に落としました。
それでも私は黙って地面に落としたハサミを拾うと右腕に突き刺しました。それも何度も。
そして右腕を白い花の上にたらしました。これでようやくこの白い花も
色がついて綺麗になります。
「!!!!!!止めてぇ!!!」マリアさんの悲鳴がしたので
私はハサミをマリアさんに返しました。
「せっかく・・・・・・・・色を付けてあげようと思ったのに・・・・・・白いなんて
おかしいですものね」マリアさんはヒッと悲鳴をあげました。
右腕からドクドクと血が溢れ地面に赤い染みをつけていきます。
それでも私は笑います。

「今ごろ痛みを知ってどうする?」

私はマリアさんの言葉を反芻していました。
自殺?誰が?私?違う?判らない?だって・・・・・私の人生・・・・・
籠の中の鳥だもん。貴女に言われたくない。
何も知らない分際で。

「どこまで嘘で塗り固めるつもりですか。虚偽で創ったものなんて
砂上の楼閣ですよ」

作られた人生など・・・・・私はいらない。
だって苦しいもの。いらないもの。こんなの。
運命は・・・・あの時から始まっていた。
そう私のところに占者がやってきた所からおかしくなった。
それでも私は信じていた。私はルドマンという人の娘だと。
そう思うことが最後の砦だった。
でも・・・・・・違っていた。顔を僅かに背ける両親を見て
私は何も言えなかった。その表情が肯定している事など
認めたくなかった。でも心のどこかでそれを認めている自分がいた。

「崩れてしまいましたね、自分を守るべき壁が」

「一体何を考えている、ルドマン!!あんなどこの馬の骨も知らぬ小娘を
養女にしてどうするつもりだ!!さては我々に対する当て付けと
見ていいんだな!!」私はそんなルドマンの叔父や叔母らが
ルドマンににじり寄って詰っている姿を、詰る声を応接間のドアの影から黙って聞いていた。
影は詰り、蔑み、侮蔑の言葉を父に、母に向ける。そして部屋から出るときに見る
親族の冷たい目。それはまるで私を失敗作であるかのように見下す。

・・・・・・・・「おかしいよ、どうして私たちを差し置いてあんな馬の骨とも知らぬ
小娘がルドマン家の遺産を相続できますの!!」金切り声で罵詈雑言をルドマンに
浴びせている叔母の声がした。私はドアの裏側でそれを黙って聞いていた。

・・・・・・・・「ルドマン、闇夜の道を歩くときは気をつけたほうが良いな、
何が出てくるのかわからんからな。もしかしたら小娘を誘拐しようと
企む良からぬ連中がいるやもしれぬ。それにあの光の教団だったか、
あれらが奴隷を欲しがっていると聞く。せいぜい気をつけることだ。
どこぞの国だったか、偽者の王妃に煽られ焼き討ちにあった村があると聞く」
叔父や叔母はそう悪態をついてルドマンの家を出ていきました。

私はその事実が分かってから・・・・ドアの後ろでそれを聞いたとき
ガタガタ震えていた。熊のヌイグルミをぎゅっと抱きしめるしかなかった。

「私は笑っていましたか?」

だから私は追放されたんだ。
そう思っていた。そして私は修道院に連れて行かれた。そして
外に出してもらえなくなった。どこかに行くという事も禁じられた私には
何も残っていなかった。ただ運命という物が私を導くからその時まで
清らかなる心を持つ事を強いられた。
でもそんな物最初から必要でしたか?

「心には色々なモノが潜んでいると聞きます。例えば・・・・・・・天使のように
優しい自分とか。もちろん悪魔のような残酷な自分もいるかもしれません。
どこかに。うふふふふふ・・・・・・・・・」

鏡の私はそう言ってまた笑う。哂う。ワラウ。

それはまるで幽閉・・・・。
だから両親は結局私の事が邪魔だから閉じ込めたんです、きっと。
それで・・・・・私にその修道院の人が言った。
「あなたは不思議な運命の持ち主です。だから心が清くなければなりません。
いずれともに歩む人と共に運命に立ち向かわなければなりません」

そんなの・・・いらない。だったら私の子供の頃を返してください。

「どうして・・・・・・・私なの。私だったら・・・・・・こんな運命・・・・切り捨てるのに。
斬り捨てられるのに・・・・・」
でも判っている。それができないと言う事を。それが嫌だから・・・・
でもそうしないと・・・・・私は両親に認められない。
もう・・・・捨てられたら・・・・・私は・・・・どうしたらよいのかわからない。

「一番自分が分かっていないくせに騙るのだな、自分自身を」

修道院時代は何もありませんでした。必要な事と言えば
私があまりに右腕を傷つけるので修道院の人たちが
べホイミのスペルを教えてくれたと言う事でしょうか。

私は夕暮れの中黄昏の色に染まった
土くれのレンガの壁に手を当てる。そのまま握り締める仕草をして
崩れ落ちるように泣きました。でもそっと肩に手をおいてくれる人はいません。
最初からそんな人期待もしていませんけどね。
どうせ籠の中の鳥なんです、だからこの外の世界へ出た事は
ありません。
よく人が籠の中の鳥を見て可哀想だから出してあげようと
聞きますが本当にそれが鳥の為に役立っていると
思いますか?
もし外に出れば鷹、鷲といった猛禽類に食されてしまうかもしれません。
それだったら中にいたほうが安心じゃないですか。

「そうそうユング・フロイトの心理学ではこうした攻撃的な自我を
「シャドウ」と呼ぶそうですよ。
そう心理的な抑圧が形成する心の影。誰もが持っている二面性の、裏側の部分。
普段は観念や価値観で押さえつけられている欲求が、一つの人格を形成し、
無意識的に引きずられやすいマイナスの部分を示すのだそうです」

私を写す鏡はすでに割られている。でもその欠片に映す無数の私が
笑う。嘲る。

そして私は修道院から出て父母のところに戻りました。戻ってきた私を
ルドマンの親族たちはわざとらしい演技で褒めちぎりました。
でも私はそれを冷めた目で見つめている。
「おお・・・何と言う美しさだ・・・これならわしの息子の嫁に・・・・」
「・・・いやわしの息子こそ相応しい・・・・」
どうせそう言ったって結局は私を蔑ろにして、私を酒のツマミか何かにして
父の、いえ義父の財産でも狙っているんでしょう・・・私の身体を舐めるように
して見る目が許せない。
もし鋏を持っていたなら私は突き刺していたでしょう、何度も。
笑いながら。はさみで生き地獄を与えたらどんなに気持ち良いでしょう。
止めを刺して地獄に送ってやりたい。
私に媚び諂い、頭を下げている人たちに。

「空虚・・・・・・・」

最後に残った小さな鏡が私の口を映す。その口は
小さく哂いながら囁く。

だから誰も・・・・・私を見ないで。
嫌なの。自分が。

「嘘ですね、笑ってなんかいませんよ。嘲笑っているの
間違いじゃないですか」

私は自分を抱きしめる。でもその抱きしめている私は悪魔のような
残酷な笑みを浮べる。

私は初めて人を好きになりました。おかしいですか、
ついさっき知り合ったばかりだと言うのにその人の事が離れない。
その人の黒曜石の瞳は私を受け入れてくれるような気がしました。
それでもその人は私の事をどう思っているか分かりません。訊ねるのが
怖い。聞くのが怖い。

私は子供なんていらない。幸せなことなんて何一つ無かったのに・・・・
どうして・・・・今になると心が痛い。
「おめでとう、フローラさん。シオンが選んだ人だもの、きっと幸せに
してくれるわ」私の髪を整えているビアンカという人が囁いている。
鏡台の前に写っている私は微笑んでいるが
瞳は笑っていない。どこかで冷めている。
でも私には良くわからない。どうしてあの人は私なんて選んだの?
そんな事をしても痛いのはあの人なのに・・・。
どうして・・・・選んだの。でも・・・・どこかで心が痛い。

心が痛い。
まだ有ったんだ・・・・・心があったんですね・・・・・。

「その冷ややかなエメラルドの瞳はとても嫌な感じがします。
見透かされているみたいで」誰かの声が聞こえる。でもそれが誰か
分からない。

「私は・・・・・・笑いません。貴方だって私がどういう人か判っておられるのでしょう。
ならどうして私を選んだのですか・・・・嫌なんです・・・・・私が。私自身が・・・・」
私はベッドの上でお互い下着姿のままシオンに言いました。
「そんなに見つめないで下さい・・・・心が痛いのですから・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・それならどうして僕を見つめる?」
「そんな・・・・・・・・・」
「僕は馴れ初めでも馴れ合いでもない・・・・・お互いの傷の舐め合いをしているんじゃない」
「だったら・・・・・・・・・うっ・・・・・・・」シオンの顔が目の前にありました。
私の口が塞がれました。でも不思議と・・・それが心地いい。
「ううっ・・・・・・うううんん・・・・・・・・」私は思わず声をあげていました。
私の口の中に舌が入ってきます。最初は怖かったですが
その内・・・私は無我夢中でシオンさんと舌を絡ませていました。
それでも私は拒絶できると思っていたんです・・・でも出来なかった。
判っていたんです・・・・
認めたくない自分がそこにいて・・・・私は同じ雰囲気の人を、この人を愛している
と言う事を認めようとしなかったんです。でも・・・・・・判ります。
もう私は一人では生きていけないと言う事を。そしてこの人も・・・・・もう一人では
辛いのだと。

「私って何ですか」

「あああ・・・・・・・・・・あふ」私は嬌声をあげる。シオンの愛撫に
私はむず痒いようなそれでいてくすぐったいような感じがしました。
でも身体が熱く、火照っているのがよく分かります。
私はそれでも自分を確かめようとして右手を差し出しました。
右腕には僅かな傷の痕があります。何度も縫って貰った傷です。
シオンさんはその傷をいとおしくキスをしながら舐めました。
チュバ、チュバ・・・・・私の指を舐め・・・・それから腕・・・・
ゆっくりと時間をかけて私の身体を、肢体を舐めて行きます。
そんな中でもシオンさんは何も言わずただその右手をギュッと握り締めてくれました。

そして甘い声が私の耳からそっと囁いてきます。
私はただその甘美な声、愛撫に感じているのが分かります。でも
その終わりはやってくる。そう身体がどうしようもなくなるときが
くる。その時私はこの人とひとつになりたいと願う。
「フローラ・・・・目を閉じてもいいよ。恐いのなら・・・・・」
「いいえ・・・・・見つめています。妻ですもの・・・・・だから・・・・・・見たい・・・・」
私はそう言いながらシーツをギュッと握ると口に咥え声がでないようにしました。
そして・・・・・・・・・濡れた音と共に私の膣内に・・・・シオンさんのが入っていく。
シオンさんのが水音と共に奥のほうへ、奥のほうへと入ってきます。そして
私は身体の奥で何か破れる感じがしました。シーツを噛んでいますが
千切れるぐらいに痛いです。
「うううう・・・・・・・・・・・・うううう・・・・」
私は身体を貫くような破瓜の痛みに涙を流しています。
それははっきりと分かる。でもそれは生きているという痛みなんだと思う。

私はシオンを強く抱きしめた。もう私のことを分かってくれる人はこの人だけ。
そしてこの人の気持ちを分かってあげられるのも私だけ。
だから今だけはこの痛みを分かち合いたい・・・・・・・・・・。

「傷の舐めあいをしているだけじゃないのですか」

私は目を閉じ・・・・・・目に涙を貯めたまま・・・
シオンのが私の身体を深く貫いても・・・・・・私は
何もしません。たとえどんなに怖くても。貫くような激痛が襲い掛かってきても。
私はシーツを口に咥えたままシオンさんのしている事を受け入れます。

「シオンさん・・・・もういいです・・・恐いです・・・・・。だって・・・・・私はどうしようもない
女です。助けてもらってばかりで・・・何一つしていません。だったらそのまま・・・・・」
生まれたままの姿になった私は泣きながら・・・・シオンさんと一つになっていながら
顔を隠しています。見られたくない。見つめられたくない。
痛い・・・・傷が。瑕が。心の中の疵が。疵が・・・・・・・・傷・・・・疵・・・・・
瑕・・・・・・・キズ・・・・・でも・・・・気持ちいい・・・この人となら・・・・・・
恐くない・・・・一緒に・・・・いつまでも・・・・いてくれる・・・・から・・・・だから
・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・・・・・」シオンさんがゆっくりと私の手を退かしていく。
「シオン・・・・・・・・・・・・さん・・・・・・・うん・・・・・・・・。
見ないで・・・下さい・・・・・こんな顔じゃ・・・貴方の前に・・・・うっ」
私の口が塞がれそのまま抱きしめられます。咥えていた
シーツはすでに私の唾液でベトベトになっています。
そのままシオンさんの舌が私の舌と絡み合って求め合います。
私は恍惚となりながらもシオンさんと求め合っています。
「うくっ、うくっ、うくっ・・・・・・・・・」
「うくっ・・・・・・うくっ・・・・・・・・・・・・」
シオンさんの舌が私の歯茎や口を刺激します。私はシオンの口の中で
絡み合ってクチュクチュ音を立てて唾液を交換しゆっくりと飲み干しました。
私達の口元からは一筋の唾液が垂れて行きました。

「どう・・・・・・・・・・・して・・・・・」
私は・・・・・シオンさんの傷だらけの身体の中で軽く悶える。そして・・・・
私とシオンが繋がっている所から白い愛液と紅い血が溢れ始めていました。
それが何を意味しているのか私には分かっています。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・辛い事・・・・・・・いやな事・・・・・全部・・・
僕も受け入れるから・・・・だから・・・・・・寂しい事・・・・・・・・・・言わないで・・・・
・・・・・・・僕たちが何なのか分からない・・・どうして
生かされているのかも分からない・・・・でも・・・・・・・
僕は・・・・・・・・・・君と一緒なら・・・・・どこまでも・・・・・・・・・・」
「シオンさん・・・・・・・・・・・・・・」私は顔をかくして泣きました。
涙が出てくる。それがどういう意味か判りません。
ただ・・・・・シオンさんと一つになっている事か・・それとも・・・・
貫かれているという痛みなのかは・・・わかりません。でも・・・その痛みがとても
懐かしくて・・・・・・・・・・・・・・・・・。

私達はお互い胸の中で・・・・小さく声をあげて果てました。それと同じくして
膣内に・・・・ドクドク音を立ててシオンさんの愛液が注がれていきます。
「ああ・・・・何かが入ってきます・・・・・熱いです・・・・・・」
それはまるで心音のように規則正しいものでした。私は目を閉じて
シオンさんの精液を受け入れています。
「・・・・・・・・・・あっ・・・・・熱い・・・・・・・あふうう」
「くっ・・・・・・・・・・・・・・」
私は思わずシオンさんの胸の中で
熱い吐息を漏らしていました。それでも私の中に入ってくるシオンさんの愛液は
私のお腹を優しく包むような感じがしました。
私達は・・・・泣いていました。どうしてかは分かりません。
そして・・・・・くらい部屋の中で・・・・生まれたままの姿でベッドで抱き合い・・・・
私はこの人を失わないように強く抱きしめて・・・・・シオンさんも私を
胸の中で抱きしめ・・・・・繋がっている身体をお互い失わないように・・・・
そう願いながら・・・・・・・私は・・・・・・目を閉じました。
もうシオンさんはかすかな寝息を立てています。私はシオンさんから離れないように
汗と愛液がこびり付いた身体を、
まだ私のところから溢れ出てくるシオンさんの愛液を
零さないように・・・・・・・・・ずっとお互いの手を絡ませていました。
強く・・・・・・強く・・・・・・・・ぎゅっと。

しばらくして私はゆっくりと身体を起こしました。シオンさんは
熟睡しているらしく起きません。繋がったままなのでシオンさんの顔は
目の前にあります。私はシオンさんの手を取りました。
「シオンさん・・・・・・・・・・・・・ずっと・・・・私を離さないで・・・・下さい。
ずっと・・・・・・・・・たとえどんな事があっても・・・・・・私を離さないで・・・・
私どんな事があっても貴方についていきます・・・・」
私はシオンさんの右手を頬に添えて優しく微笑みました。
それから・・・・・・・私はシオンさんの胸の中で眠りに落ちて行きました。

「ようやく笑ったんですか」

それからして・・・・・・・・・何ヶ月経ったのか分かりません。
放浪につぐ放浪でどこをどう歩いたのか分からなくなりました。
でもそれでも私は嬉しかったです。この人はずっと私の手を握ってくれました。
泥だらけの手になっても私たちが泥だらけになっても私は
この人の手を綺麗な手だと思っています。

ただ私たちが旅を始めてからある国に辿り着きました。
それはシオンさんの生まれ故郷でもありました。
サンタローズとか言う村ではありません。

私は・・・・・・・・
日に日に膨らんでいくお腹を見て・・・・分かりました。
でも不思議です。あれだけ両親というモノになるのを嫌がった私が
今は何故かこの人とずっと一緒にいたいと思うのです。
そしてこの人を離したくないと思うのです。だから・・・・
私は妊娠している事を伏せました。でも幸せな笑顔が溢れます。

「私は笑っていましたか。とても綺麗な笑顔?うん、そうです。だって
私のお腹にはあの人の子供が宿っているのですから」
誰かが笑います。でも私はそれが誰か分かりません。

そして・・・・・・・・・・・・
私は豪華なベッドで双子を産み落としました。そうシオンさんと私の・・・
赤ちゃんです。私は・・・・・・・・・・・分かりません。
「ほら、奥様」私の側にいたシオンさんの叔父様の奥さんが赤ちゃんを抱き上げて
います。あれから・・・・私達はシオンさんの生まれ故郷の王国で王、王妃として国を背負う事になりました。
でも・・・・・・。
「奥様はシオン様と共に国を背負うのですよ。それが貴方の運命ですよ。
不思議な運命を持った少女だからこそ清い心を持たなくてはいけない」
昔にそれを誰からか聞いた事があります。でも思い出せません。誰かが
言ったのですが今ではそれはもう関係の無い事です。
「そんなの・・・・・・・・」私は何か言おうとしましたが言えません。
私は黙って赤ちゃんを抱きしめるとそのまま目を閉じました。
そうしているうちにシオンさん、いえ・・・私の夫が駆け込んで来ました。
シオンさんは黙って・・・私達を抱きしめました。
「あっ・・・・・・・・・・・・」
「フローラ・・・・・よくやったね。僕達の子供・・・・・・・・・だね」
私は・・・・・・・・・・。しばらくして笑顔で答えました。

「ええ。私達の子供です」私は・・・・・目に涙をためて笑いました。

私は・・・・・・・
私は・・・・・・・
初めて自分の生きている意味が分かったような気がしました。
もう右手は痛くありません。
だって右手をぎゅっと掴んでくれる人がいますから。

「私はわらっていましたか?ううん、そんな事質問するほうが
おかしいですね。綺麗ですよ」
二人がいる部屋の大鏡に映っている私が笑います。

私は初めて心の底から笑いました。
初めて・・・・・笑いました。

(終わり)

(あとがき)

おんしー。お詫びといっては何ですが
フローラ小説修正と言う事で。


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